
有隣堂を回遊していて目に入った吉本ばななさんのあまりにも有名な作品を手に取りました。
祖母を亡くし身寄りがなくなった”みかげ”という女の子がおばあさんと親しかった大学生男子の家に住むことになり…という筋。この文庫本では『満月ーキッチン2』という物語も収録されていました。
最近本をよく読んでいますが、”あぁ、俺は男の作家の本ばかりを読んでいたのだなぁ”と思うくらいに、なるほど女性らしさを感じる小説でした。
LGBTのキャラクターが出てきたり、みかげが身体的なアクションをしたり恋も自発的に選択していったり、男性中心とは違う物語展開。と同時に女らしさ、男らしさが志向されるセリフが結構印象的にあったりして、”なるほど、1988年って言ったら昭和の終わりだものなぁ”と。携帯やネットも登場しないし。けれど感覚的に現代の感性で読める普遍性があります。逆にジェンダーに過敏にもならず素直に生きている感感覚もあったり。
この小説の普遍性は、繊細な女性の心の機微の描きかたでしょう。みかげのモノローグが”あぁ、本当にこういう女の子いるよなぁ”と思わせるリアリティがあって。繊細で、色んなことを考えて、けれど弱いわけではなく寧ろ強く自分ですっくと生きていく。この女性像がまさに平成を超えて令和でも通用する人間造形となっていました。
また、”この夜、この瞬間に会わなければ、きっと二人は永遠のフレンドになってしまう”という状況が描かれているのも”あぁ、こんな恋愛の刻もあったりするものだよな”と思ったり。人と人の関係、特に恋愛関係は本当にフラジャイルな瞬間もあったりしますからね。
この文庫に収められている『ムーンライト・シャドウ』も含め全編に死の影が差していて、”ちょっと死を使いすぎじゃないか”とも思ったのですが、人の人生において身近な人の死が本当にじわじわと心を重くしていくこと、状況を変えざるを得ないこと、そして、それでもそこから歩き出さなければならないことはドラマを生みますね。
漱石からガルシア・マルケス、安部公房、鴨長明などオッサンに小説を読んでいて、無論古典中の古典ばかりで、表現の素晴らしさは『キッチン』を超えているところはありますが、この『キッチン』ほど、繊細だけど弱くない、自分で生きていく女性像の機微をきちんと描けていたものはありませんでした。そしてそこから30年を超えて、”20年代に描かれる女性像、ジェンダー像の小説を読むのもいいかもな”と思わされた読書となりました。