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ホメロス『イリアス』英雄豪傑が無双するトロイア戦争の大叙事詩のスペクタクル

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今年のGWもStayhomeが叫ばれる中、想像の世界でギリシア旅行を愉しむのもいいかと岩波文庫 ホメロス『イリアス』松平千秋訳 上下巻を読んでいました。

古代ギリシア神話といったらまず出てくる『イリアス』。アカイア勢(ギリシア軍)がトロイエの聖都イリオス(イリオン)に攻め込む壮大な戦争描写が全編に渡って繰り広げられる叙事詩。

読み始めた時はもうかなり脳を消耗してw何しろ出てくる人物・神名がアキレウスだのアイアスだのアイデスだのアイネイアスだのまぁとにかく日本人には見分けがつきにくいのがどんどかどんどか出てくるもんで、注釈をひっきりなしに見ながらの読書で最初は眠くなりましたw

けれど、訳文の良さもあるのか、ホメロスが画いた戦争描写は映像として立ち上がってくるというか、まるで『レッドクリフ』や『プライベートライアン』をみているような凄まじく圧倒する文体のスピードと豪壮さがあって。

かの古代ギリシアには苗字と言うものがなくて、それぞれの登場人物は「○○の子アガメムノン」とかそういう風に描写されて。夥しい人数がギリシア側トロイ側にいるのですが、それぞれの人物がそれまで営々と続いてきた英雄の血族を代表してこの戦に駆り出されているのかと戦争の中でも一個人が兵士の数字として埋没するのではなく人間として扱われていたように想います。

その人間性と言う面ではまるで日本の戦国武将の様に名乗りをあげて戦い合ったり、戦争が重火器化される前の風情もありました。

また人間たちの感情のドラマだけでなく、この戦争の勝敗に大きな影響を及ぼすのがオリュンポスの神々の御手。何しろ古代ギリシャの神々はなんとも感情で動いていてw雷を操るゼウスを始めとして各神神には属性があり、「眠り」や「夜」、「争い」という概念を表す神もいるのですが、彼らが時に兵士の力を最大限に高めたり、士気を上げさせたり、さらには武具を与えたり。というのも古代ギリシアでは神々が人間と子どもをつくるのも然程珍しいことではなく、そうして恩寵を受けた人間同士、或いは天空などで神々同士が争う2つのレイヤーが交わりながら戦争は進んでいくのです。ここら辺の神々が人間の戦争に影響を及ぼすのは『封神演義』にも繋がる所があるなとも想いました。古代エジプトや古代日本もそうですが、神々との繋がりが政治的・軍的な権力版図を表したりもしているのだなとも。

豪傑たちの中でもトロイエ側の王の子ヘクトルと、ギリシア側の神テティスの子アキレウスの無双っぷりは凄まじく、「これプレステで『イリアス無双』だしたら受けるんじゃね?」と想うくらい。メディアミックスという点では、元々こうした叙事詩はラプソードスという吟遊詩人たちが口承で伝えていたものだそうで、文体に決まり言葉やスピード感もあるし、神田伯山辺りが講談『イーリアス』を一か月ブチ抜きでやってもいいかもなんても想いました。戦闘描写の密度・物量は『ドラゴンボール超 ブロリー』並だったし。

確かに800頁超にも及ぶ巨大な物語なのですが、一歌(一章)が大体30ページから40ページなので、読み進めるのは慣れてしまえば結構テンポよく読めました。何しろ文中にあふれる古代ギリシアの単語たちにはどっぷり浸かれ、イリアス風の夢をみるくらいでした。J-RPGでは西洋風の舞台も数多いですが、本家本元の雰囲気は怒涛と言うか神風を吹かせる神々が象徴するような自然野生の剛健さがあった気がします。

豪気といえば、こういう物語にどっぷり浸かってしまうと”戦争こそが歴史の華”みたいなマチズモな思想に嵌ってしまいそうですが、確かに”なるほど武力と言うか身体の剛毅さに裏打ちされた『胆力』は男には要るのだろう、古代ギリシアの昔から東京五輪2020まで身体的鍛錬の『勝負』がこれほどまでに特別扱いされるのも、そういう国家的な死地の争い故なのだろうな”とも想ったり。

英傑と神々が創り上げ衝突する勇猛果敢、そしてえげつのない戦争風景、けれどそこには一種の美学も行動規範として貫かれていて、そして決して一人一人の兵を蔑ろにしない語り口が、一つ人間性と戦争という相反するものを成立させている気もしました。

また下巻には伝ヘロドトス作『ホメロス伝』も収録されていて、”あぁ、「ホメロス」ってあだ名で、意味は「盲人」という意味だったのか”とか、ホメロス自身が会った人々を彼の叙事詩に登場させているなんて話も面白く読めました。






by wavesll | 2021-04-29 13:13 | 書評 | Comments(0)
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