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ボッカッチョ『デカメロン』平川 祐弘 (翻訳) ペスト禍の中で紳士淑女によって語られた猥談だけでない100物語

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デカメロンを読んでました。ペスト禍におののくフィレンツェから抜け出して別荘で7人の淑女と3人の紳士が一日それぞれ一話、十日間物語る(デカメロン)様が画かれたこのボッカチオ畢生の書物は、去年COVID-19が蔓延した時から”読むなら今だな”と想っていたのです。

実は読み始めるまではイメージは「デカメロン伝説」とか或いは「艶笑談なエロトークが夜な夜な繰り広げられた奴」とか、或いはマルキド・サドの『ソドム120日』のような異常な物語なのではというようなもので百物語なのも知らなかったのですが、実際にこうしてがっつり百話読んでみると、勿論猥談も多いのですが、くすりと笑えるひと捻りきいた話であったり、気前よく鷹揚な様子が後々身を救う爽やかな読後感のある噺であったり、悪辣な爆笑のネタであったり大変面白い。

そして登場人物たちが上品。ここら辺の節度はボッカチオ自身が50年前の文学の巨人、ダンテと『神曲』を研究しきり、講義までするくらいの人だったのもあるかもしれません。さらに言えばダンテが急進的なキリスト教的価値観で断罪していくのに対してボッカチオは商才も発揮した彼らしく、ヨーロッパだけでなくアフリカ、さらにはアラブも股にかけながら、宗教の壁を越えた融和的な視座を示して。中世としてはあり得ないくらい先進的な人だったのだなぁと。

と同時にやっぱり猥談の面白さがあってw奥さんも坊さんも不貞を働きまくるw(ダンテもそうですがボッカチオも「聖職者」の堕落といかがわしさはこれでもかと書いています。)。『デカメロン』を読んでいると”あぁ、中世の最上の娯楽は恋と言うかセックスなんだなぁ”と。セックスレスなんかもってのほかと言うか、そんな状態なら不倫もあたりきというような世界観で大変刺激を受けましたw女性の結婚適齢期が14才というのも衝撃。あと実際に存在した多数の人物の逸話として語られるというのも驚きでした。

古典的な物語だとオペラ「マゼッパ」なんかもそうですが、どうしても女性が智慧が足りない、劣ったような描かれ方をすることも多いもので、本作にもそういった話もあるのですが、それと同じくらい、いえそれ以上にオトコをやりこめる女性の姿が画かれていたのも印象的でした。最近はポリコレがやかましいですが、おそらく教会の力ももっと大きかったであろう中世でもこれだけ自由闊達にものが書けたというのは驚嘆。この大らかで(恐らく先端文化で)面白噺の畳みかけ集は欧州王族の間でも流行るくらいの大変な人気にもなったのだとか。

中には理論先行な話もありますが、人間の、人間臭い部分、おもしろおかしい部分と本音がつまったこの百物語、単純にエンタメとして飽きる事一切なしに(何しろ一つのテーマに沿った10頁から最長で40頁ほどの短編が10個で1日、それが10日)読めるので、本当に自粛期間中の暇つぶしには最適です。デカメロン、おもろかった!時代を超越した猥談を読む時間はなんとも言えぬ贅沢さがありました。

物語レイヤーとは一段離れたところに、7人の女性と3人の男性が語らうレイヤーがあって。その前段階のペストの恐怖が画かれる前文や、別荘からちょっと歩いたところの風光明媚な谷の描写なんかも面白かったり。あと男には非モテキャラもいたり。彼ら自身の動きもついついみてしまう意味でも愉しい読書となりました。平川氏による翻訳の妙と注釈も大変読みごたえがあるものでした。

by wavesll | 2021-06-01 21:37 | 書評 | Comments(0)
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