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バルガス=リョサ (著), 木村 榮一 (翻訳)『緑の家』ペルーの風土から生まれた混沌とした細密で巨大な謎に満ちた群像物語

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風土に文学は根差すとすれば、それは人の心根がその自然環境に大きく影響を受けるからかもしれません。自然の恵みと大災害を被る日本人の精神性や、砂漠の荒野で生まれたアブラハムの宗教、ナイルの賜物とも言えるエジプト文明。例えばそれは南米においては「密林」という存在が、文学を始めとして民族の精神性に大きな位置を占めているように感じます。

ガルシア・マルケス『百年の孤独』は今まで読んだ中でも随一に面白い小説でしたが、あれもアマゾン川のほとりの村の一代記でした。エグベルト・ジスモンチも一時期アマゾンに訪れ音楽探究を行っていたとか。

そしてペルーもアマゾンを風土の一つとして持つ国。「風土の一つ」と書いたのは、ペルーはアンデス山脈を挟んで太平洋側は砂漠地域が広がっているから。私は二度ほどペルーを訪れているのですが、リマから少し離れると砂漠が広がり、そんな中でも家を建てて暮らす人々の力に驚きました。そして山岳地方、さらには密林と、ペルーと言う国は大きくかけ離れるほど多面的な貌を持っているのです。

さて、ラテンアメリカ文学は本当に面白いものが多いのですが、そんな中でも傑作と名高いのが、ノーベル文学賞も獲ったペルーの作家、バルガス・リョサの代表作である『緑の家』。名前は知っていたのですが、何しろラテンアメリカ文学は複雑怪奇なイメージがありますから、相当気合掛からないと読めないと踏んで今まで未読だったのです。

で、今回読み始めてみると、「ウボァ"…!」と声が漏れるほど噎せかえる程の文学的濃密さと複雑怪奇さ。何しろ5、6の物語がぶつ切りで連続して展開され、そのうち一つはほとんど改行もなく書き進められるため、脳汁出っぱなしで、全貌は理解できないまま”あれ?あのキャラ誰だったっけ?え、あいつ?”とページをめくるのを前後させながらまるで熱帯雨林の迷宮を彷徨う様な読書となりました。

これ、アマゾン・レヴューを読むとノートを取りながら読み進めた人も結構いたり、中にはあらすじを整理したのを前もって”予習”して、分かりやすくしながら読んだりしている人もいたり、その「整理された5本の物語のあらすじ」を書いている人も散見されました。ただ、個人的にはこの本の読書体験としてはこの謎に満ちた物語に徒手空拳で挑みかかって、”マジでわけわかんねぇ”とぼやきながらも物語の結末には巨大な満足感を得る、というものが好いのではないかと。

故にネタバレは書かない方がいいという判断で、もう「『緑の家』とは」すら自分で読んだときは“そうだったのか”という驚きがあったので、それを邪魔したくなく書きたくないのでどうこの感想レヴューを書いたものかなとも思うのですが、第一章に描かれる緑の目を持つ先住民の少女、ボニファシアが、修道院にて自分と似た境遇の子供たちを逃がす時、キリスト教化され、一種洗脳的になっていても、やはり自分の故郷の血が呼応すること、そしてそれを”悪魔”と呼ばねばならぬことは、丁度その前に読んでいた遠藤周作『沈黙』 から地続きになる感覚がありました。

この物語には様々な主要人物がいて、ボニファシアもそうですし、フシーアであったり、アンセルモであったり、リトゥーマであったり、ラリータであったり、ニエベスであったり、アキリーノであったりしてそれぞれのパートで躍動感をもって活躍するのですが、何しろそれぞれの物語は時系列もバラバラ、さらには地の文として会話劇が展開したり、会話と内なる声がシームレスに展開されたり、文章の間に突然時間軸の違う会話が挿入されたりで、もうカオスwこの本全体が一種の謎、叙述ミステリーであり、そのフィナーレへの混沌とした推進力となっているんですよね。そこにはキリスト教と先住民や、密林と砂漠の街、田舎町と大都市、歓楽と宗教、男と女といった様々な相反する要素がぎゅうぎゅう詰めに描かれ、細密な洛中洛外図屏風でも見るかのような、描かれてないものまでゲシュタルトのホログラムとして浮かび上がるような文学空間が起ち上がっていました。

そこには愛があり、欲望があり、生死があり、そして風が吹く。ミステリーでありスリリングなサスペンスであり、一つの純愛ものでもあり、ピカレスク・ロマン、さらには蓮っ葉な運命をたどる一代記でもありました。やー、とてつもない本だった。

by wavesll | 2021-06-16 21:10 | 書評 | Comments(0)
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