
つげ義春、その名はさんざん聴いていて、
『ねじ式』の最初の「まさかこんな所にメメクラゲがいるとは思わなかった」というコマなんかは生原稿もみているし、
眼科の看板のシーンは台南の風景が元ネタなんてトリビアまで知ってるのに、これまで読んだことがなかったのでした。
で、今回ちくまから出ている『つげ義春コレクション ねじ式/夜が掴む』を読んで。
本書は『ねじ式』に代表される夢の情景を描いたような作品群と、漫画家である夫と妻の生活を描いた作品群で構成されているのですが、思った以上にセクシュアルな内容で最初はちょっと面喰いました。
芸術性が高く評価されるつげ作品。『ねじ式』の何とも言えないおどろおどろしさ、それは『ゲンセンカン主人』でもそうですし、ガロ系というのかな?昭和の、なんとも饐えた匂いと共に情念が渦巻く日本に通底する情景をみることができたというか、今、表面的にはすらっと綺麗だけれども、時に何とも薄っぺらくみえもする令和の日本にはない闇の肋骨をみるような思いがしました。
性愛描写、それも完全に男のダメなところが如実に表れているような性的描写も、半ば強姦の様なシーンはそれこそ今だったら拒絶されていたかもしれないけれども、昭和の汗ばんだ時代のおどろおどろしくなりながらどこか強かさもある白黒の闇の表出としては必要なものであって、今の価値観で断罪するのは不適格なのだろうと想います。
「外のふくらみ」のような、本当に夢の何気ないアイディアを膨らましたような話のセンスはちょっと惚れ惚れしました。また日常の何でもない事なのだけれどもちょっとした逸話になるというバランス感覚で「日の戯れ」なんかのエピソード・チョイスも素晴らしかったです。
こうしたアングラ的な空気はどうしてもあの時代でないと発せられないものだったのかなぁとも。ちょっとガロ系、蛭子さんや根本さんなんかも掘りたくなりました。