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町田康が激賞していることを知り、大山海の『奈良へ』を読みました。
東京で、うだつのあがらない生活をしている漫画家である小山は、郷里の奈良へ帰る。経済の論理と権力構造の東京とは異なり、奈良ではヤンキーたちの、暴力や原始的な原理で人間生活が回っている。奈良でも生きにくい者たちが多数描かれ、「大仏マン」は拳銃を手に入れ『奈良崩壊』と演説する。
小山は編集者とやりあった末、王道の漫画を描こうとファンタジーものを書き始める。勇者たちはオークを化け物として殺していくが、航海士のハインはオークに人間らしい情を寄せ、結果自分も無残に勇者にいじめられる。ここでは力とルックスがすべての世界。
東京、奈良、ファンタジー世界、この3つがいつのまにか繋がって、結果として何かがパキっと解決するわけでもないのだけれども、生きにくさを感じている者たちの、その生の心地悪さがズボっと描かれて、提示される話でした。
この作者の画の表現で印象的なのは、歯茎を剥きだしでニカっと尖った歯を見せる表情。弱者として描かれる小山やハインも、自分より暴力的に強い男には歯向かえないが、己より弱い女性には力を行使する卑怯さも描かれて、強者、弱者に限らず、その暴力性の象徴として歯茎剥き出しの尖った歯が印象的でした。
まぁ私自身の経験的な知見でも、特に学生の頃なんてのは、男は牙と言うか他者に勝る、マウンティングしてよりヒエラルキーの上にいないと女子なんてのは見向きもしないもので。他者を傷つけずに自分を嗤って笑いを取っていたって、そんな者に価値はないと、まぁ所詮女子大生くらいの餓鬼度じゃそんなものでしょう。地元のコミュニティもヤンキーみたいな女ばかりで、なんというか今となってはあぁいうのとは関わりにならないのが吉だなと想うところです。かといってバリキャリにもなれない自分は、この何とももにょる空気の漫画にミョーな共感を覚えたものでした。
とてつもないことは別に起こらないのだけれども、ミョーな読後感を残す佳作でした。