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ガブリエル・ガルシア=マルケス『族長の秋』鼓直訳 朽ちていく独裁者の暴虐と孤独な悲哀を魔術的リアリズムの文体で画く

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本読みを本格的に始動させた際”秋になったら挑戦しよう”と想っていたのがこの『族長の秋』。

「挑戦」というのは以前、本書を読もうと取り組んで、挫折したことがあったから。
私が今まで読んだ本の中でもガルシア=マルケスの『百年の孤独』はずば抜けて面白い一冊だったのですが、学生当時の自分では『族長の秋』はどうにも歯が立たなくて。

それが今回読み始めてみると、確かに頁を隙間なく”魔術的リアリズム”の発話者に関係なく地の文がぎっしりと敷き詰められた描写が続くのですが、予想以上にスルスルと読めて。これはバルガス=リョサ『緑の家』なんかで読む体力をつけていたのもありますが、やはりガルシア=マルケスの文章がとんでもなく面白いことがその主要因でしょう。最高に面白過ぎてグイグイ読めてしまいました。

舞台はラテンアメリカの架空の一国家。列強の後ろ盾で「大統領」になった男が主人公。昔は才気あふれる実力を持っていたのかもしれないけれども、この物語時点ではもう老いさらばえていて、老醜・腐臭・朽ちて行っている。超人的な魔術の片鱗がいまだに残りつつ、誰も信じられない、また裏切られる、あるいは弱さゆえに最悪の邪悪さ、暴虐さをみせながら、その百年以上に及ぶ治世を果てようとしている大統領の「秋」が画かれます。

影武者や彼が惚れる美人コンテスト優勝者、腹心の部下、母親、ローマ教皇庁から来た審問官、正妻、大統領を魅了しその権限を使い虐殺を繰り返す男など、強烈な印象を残すキャラクターが大統領に関わり、そして去っていく。

その「物語」も相当に面白いのですが、何よりも強烈に面白いのが本書の筆致。
延々と現実と幻想がゴチャ混ぜになるような光景描写が続いて。この”魔術的リアリズム”の文体は、極めて一種絢爛な風景描写なのですが、比喩を駆使しているというよりも個別具体的な事物の列挙によって”Real”でありながら”Magic”を産んでいるという点が特異で驚愕させられ魅了されます。牛と鶏の糞だらけになる大統領府で貝のぶつぶつに寄生されながらの大統領の晩年、人の領域を超えるような生の虚実。

権力が長期にわたって溜まると、かならず悪辣さが栄えていくという見本でありながら、とてつもない残虐さをみせながらあまりにも「弱い」大統領の姿には独裁者の虚しさも強烈に感じさせられ、その権勢と悲哀の奇妙な混合が、ラテンアメリカのカオスな情緒を深く表現している、そんな感慨を持った読書となりました。

by wavesll | 2021-09-08 02:22 | 書評 | Comments(0)
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