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マルクス・アウレリウス『自省録』神谷美恵子訳 煩悩の焔を抑える剛柔な自己啓発の書

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哲人皇帝といわれるマルクス・アウレリウス・アントニヌスが己のためのストア派哲学としての自省の覚書として認めた『自省録』、この本のことを旧友に勧められたのもう十年以上前、ようやく今に読むことになるというのは、わが身のレスポンスの遅さにはバツが悪いですが、本に限らず、その人その人によって作品と出逢う機というのは千差万別であるなぁと改めて思います。

『自省録』、読んでいると煩悩の焔が収まって心が静かに高みへ行くような、非常に力をくれる書物で。

ストア派哲学というと難しそうな印象を持つ方もおられると想いますが、全十二巻が巻当たり20ページほどで書かれ、そしてその中でまるでマルクスの心の裡の呟きをみるような、短文から中文の章によって構成されていて、とっつきやすいものでした。

その内容も例えば「朝眠くて起きられないときどうするか」なんて砕けたテーマのものもあったり、と同時に極めてハードな、”どんな人間も死に、その人を知っている人もみな死ぬ、土に還り分解されるのみ。人間が考えるべきなのは死後の名誉・賞賛ではなく、現在のみをよく生きるのが肝要だ”といった思想もあったり、”他人が自分に害をなしてきても、彼がなぜそうなってしまったのか考えて、決して怒らず、どんな人にも親切に接するべきだ”というストイックとも言える人生訓があったり。

ストア派哲学における「神」あるいは「法」というのは宇宙自体が神で、その唯物論的な史観の中で、自然(ピュシス)に従って生きることが宇宙に適うことなのだという思想で。この一種の汎神論な思想は、私自身が想う神という存在の在り方にも似ているところがあるなぁと。

とにかく名誉を欲しない、あるいは他人に怒らない、わが身に与えられたものに満足し、全うしていれば、いつ死んでも生は完成しているのだという剛健な思想は、”これは逆説的にマルクスはそうあれなかったゆえに何度もそう記しているのだろうな”とか”皇帝という立場だから言えた観念でもあるよな”とか、あるいは”これは「自省」だから成り立つけれども、この姿勢を例えば他人に「良いものだから」と強要したらとんでもないハラスメントだよな”なんても想いました。また気候変動などの問題を考えると「現在だけを考えて生きろ」というのはちょっと足りない思想にも思えて。”他者がどう思おうが我関せず”はちょっと傲慢にもなりえるのでは?と。

けれども、この本を読んでいると、例えば承認欲求であったり、あるいは他人が想うように動いてくれないときのイラつきなんかがみるみる鎮まっていくのです。それはマルクス・アウレーリウスがその生涯をかけて常に自分の在り方を理想に近づけようと、己に言い聞かせている姿からの伝導でしょう。

自然(ピュシス:身体的な自然と内なる指導理性【ト・ヘーゲモニコン】)のままに生きよというメッセージは、今でも全然指導力をもって響きます。また人生において心が焼かれているときなどに読み返したい、力ある一冊であり、そして引用されている古代の名著から、ギリシア・ローマの思想書たちへの入口にもなるような書物でした。

by wavesll | 2021-11-26 20:42 | 書評 | Comments(0)
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