Don't Think I've Forgotten: Cambodia's Lost Rock & Roll『Don't Think I've Forgotten: Cambodia's Lost Rock & Roll(カンボジアの失われたロックンロール)』が2/3まで日本語字幕付きで無料公開されていて、観ました。
物語の始まりはWWII後、平和裏にフランスから独立したカンボジアは国王の振興の元、音楽文化が大いに花開いて。シン・シサモットなどのレジェンドたちが活躍。
この映画の主役は数々の歌手・ミュージシャンたちなのですが、彼らが鳴らす音楽がとにかく最高で。シン・シサモットのカンボジア歌謡なんかもう垂涎もの。
そこからカンボジアはフレンチ・ポップや南米のチャチャチャに影響を受けて新しい音楽が生まれていきます。セクシーなスローブ・ドレスで楽団を従えてクラブで歌う歌姫たちの姿は、どこか日本の戦後歌謡の歴史とも重なって。同じアジアの、欧米から影響を受けていった文化圏の別の一例なのだなぁと。
冷戦時代でしたがシハヌーク国王は中立路線を選び、カンボジアは平和を享受します。けれど、隣国・ヴェトナム戦争は暗い影を落としていきます。と、同時に第七艦隊がやってきたことで米国文化が流入し、カンボディアン達も夢中になりました。
けれど米国は冷酷な破壊もカンボジアにもたらします。北ヴェトナムがカンボジア国境から入って南ヴェトナムを攻撃すると、米軍はカンボジア領内を空爆。これへの反発によってシハヌーク国王は失脚、軍のロン・ノルが政権を取ります。
シハヌークは復権のためにクメール・ルージュと手を組みロンノル政権と激突、ここでも米軍が無慈悲な爆撃を行ったために反政府に共鳴する農民が増え、ついにはクメール・ルージュが政権を握り、そしてシハヌークを幽閉。ポル・ポトによる知識層・文化人への徹底的な弾圧と、恐怖による圧政の地獄が始まります。
この映画で登場してきた、楽園のようなカンボジアの音を鳴らしてきた歌手・ミュージシャンたちが否応なしにこの地獄に呑まれていくのは悲痛が突き抜けていました。音楽という、POPで楽しいカルチャーの物語が紡がれていただけに、その悲痛さが際立って感じられて。この感覚は是非映画を観ていただいて、数々の名ナンバーを聴いた上で、政争の果てにこの地獄が巻き起こってしまった様をみていただきたい。
内戦・戦争は人々の人生の喜びを台無しにします。自由も全くもって奪われ、人々を活気づけるミュージシャンたちは抑圧され、悪政のための歌を歌わなくてはならなくなる。自由というものはなんて貴いものなのだろう、と想います。
と同時に翻ってCOVID-19禍において営業の自由や移動の自由が感染対策のためにある程度制限されるのは仕方ないのではないかという気持ちもあります。ここは本当に板挟みですね。芸能人やタレント学者がメディアで適当に誤情報を拡散するのを聴くと口を塞ぎたくもなってしまったり。こういうのは、どうすればいいのか…。
今言えるのは自粛という行動変容も重要な因子ですが、根性論だけでなく、薬やN95、KF94といった技術的な解決策をもって、ベストではなくともベターな解決策を政府は打ち出せないものかと想います。
またウクライナ情勢もきな臭くなって。戦争にならない、自由主義が守られる智恵を世界が維持できることを心から願うばかりです。
そして、この映画で鳴るカンボディアン・ミュージックの素晴らしい楽天地なバイブスが、廣く人々に響けばいいなと。心を打つ映画、心に沁みる音楽でした。
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