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坂口尚『石の花』 ユーゴスラビアの人々の視点からWWIIの戦禍を描き人間の尊厳を問いかける傑作漫画

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5/16まで角川の電子書籍サイトBOOK WALKERで戦争のことを考えるヒントとなる作品たちが無料公開されていて。
その作品の一つに前々からちらりと名前は聴いていた坂口尚『石の花』が全5巻すべて公開されているとのことで、ここ数日読んでいました。これが凄味のある名作で。

物語はユーゴスラビアのスロベニアに暮らす少年クリオと少女フィーがWWIIのナチスによる侵攻、そしてユーゴスラビア内での民族対立から戦禍に巻き込まれていく様を描いていました。

今のウクライナ侵攻もそうですが、普通に暮らしていたクリオたちが戦争に巻き込まれていく、あまつさえ仲間が殺され、自分も手を血に染めなければならないのかという懊悩に苦しむ。地獄の中で、人間の尊厳とは何かということを問う、哲学的な主題を坂口先生は著していました。

かといっていわゆる「お勉強漫画」なのかといったらそんなことはなく、クリオ、フィー、そしてクリオのお兄さんイヴァン、ナチのマイスナー大佐、パルチザンや情報屋達たち、さらにはチトー等の実在する政治家等のキャラも活き活きと命が吹き込まれていて、謀略入り乱れ、そこに愛や純粋さが翻弄されるストーリーには手に汗を握る白熱がありました。

また私の個人的な感想としては、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、スロベニアを旅したことがあって、フンベルバルディング先生が校外学習に連れて行ったスロベニアのポストイナ鍾乳洞にこそ行ってはいないのですが、サラエヴォやドゥブロヴニク、スプリット、リュブリャナ、ザグレブ、またブレッド湖畔のチトーの別荘をみたこともあり、コトルなんかもTBSの世界遺産で興味を持っていたので、あの壮麗なバルカン半島に横たわるこうした哀しい歴史が立体的に浮かび上がることが読書で起きていました。

実際、民族的対立はWWII以降、そしてチトー独裁の後にユーゴスラビアを内戦に墜として。その傷跡は実際今以ってサラエヴォなどには色濃く残っていたし、ドゥブロヴニクのガイドさんもこうした歴史は忘れてはならないと言っていたことを想い出します。

「戦争の本当に忌むべき点は、普通に平和を愛する人に銃を取らせることだ」のような言葉がありますが、普通に温かい暮らしをしていたクリオ達が苛烈な戦争に巻き込まれる禍々しさは筆舌に尽くせませんし、”これが今ロシアによってウクライナで起きているのか”と想うと戦慄します。あれだけ人を殺したくないと敬虔なユダヤ教徒にイザークは描かれていましたが、権力を握ればイスラエルはパレスチナを蹂躙しています。人間は愚かです。だからこそ、平和を維持するために常に人類はたゆまぬ努力と研鑽をしていかねばならないのだなと。今のあの美しいバルカン半島を想うと感じるのでした。

by wavesll | 2022-05-14 00:02 | 漫画 | Comments(0)
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