踊り子 / Vaundy
夏だしなんか爽やかな小説読むか。Vaundyの「踊り子」にかこつけて、大作家の大有名作を何気に読んでないから『伊豆の踊子』読んでみよか。と手に取った川端康成『伊豆の踊子』。
で全然事前情報を入れてなかったので驚いたのが「伊豆の踊子」って僅か40ページの短編なんですね。東京のエリートらしき学生が伊豆を旅して、旅芸人の一行の若い踊り子にちょっと惚れて、一行と仲良くなり共に伊豆の宿場町をめぐり、そして別れる。読んでみて”あれ?ほんとに何てことない話だぞ?”と最初思って。踊子との淡い恋は本当に淡い恋で、当初学生は踊り子と寝たいと思っていたのだけれども化粧して大人びていたけれども彼女は幼き生娘で、ちゃんと保護者の管理下にあって、あっけらかんとした温泉シーンはあるけれども、特にコトが起きるわけでもなく、言ってみると本当に爽やかなひと夏の出会いが描かれて。
で、ちょっと拍子抜けした後に読んだ『温泉宿』が、温泉宿の娼婦たちの季節がめぐる様が描かれた作品で、まるで南米小説、ガルシア・マルケスやバルガス・リョサのような淫靡で溌溂とした一種の明るさと暗さが入り混じる様がうっすら日本の情景に混じる読み口に”これ、何気に凄くない?”と。
さらに次の「抒情歌」は思いを果たせなかった想い人に未練というか連綿とした心持を綴る女性の語り口なのですが、古今東西の宗教・スピリチュアル思想が引用されて”おいおいこれは凄いぞ”と。
そして「禽獣」!小鳥を始めとした小動物を多数飼う独身男の、嗜虐的というかフェティッシュの極みであり一種の非人間的な快楽と自虐性のある思想が展開されて、これが一番ぐわっと来ましたね。これはヤバすぎた。
で、新潮文庫に収録されている解説が素晴らしくて。これで目から鱗が落ちて。竹内寛子による川端康成の人生含む基本情報の解説で川端が早くして家族を亡くし孤児となったのを知ります。東大卒なことも。
そして目を見張ったのが三島由紀夫筆の『伊豆の踊子』解説。これによって後の三篇に見られる非常に深い、性と生を感じさせる小説世界が、『伊豆の踊子』においても「処女性」をキーワードに展開されていると明かされて。俺、全然読めてなかった。
さらに重松清による『伊豆の踊子』解説では、主人公の学生が孤児根性のひがんだ気持ちに耐えきれなく伊豆旅行へ出た一節や、旅芸人たちが乞食芸人とされた看板の一文などを軸にいかにこの旅が、学生にとっても旅芸人一行にとっても心を通わせた思い出になったかということが滔々と解説されて。まじで「何も起きなかった」なんて言ってしまってすみませんm(_ _)m
と同時に川端自身が後半生で『伊豆の踊子』に関して”ひがごころ”があると語っていたことも紹介されて。世に知られる超大ヒット作が、作家にとって幸運なことであり有難いことではあるけれども、同時にそれでずっと自分が語られることへの”ひがごころ”。ミュージシャンでもそういうことは好くあるよなぁなんて思いながら読みました。
で、もう一度読み直した『伊豆の踊子』。爽やかで、確かに自分はバイオリズム的にも後のもっと嗜虐性の高い大人な作品たちの方が好きだけれども、鬱屈した青春の日々で一陣の風が吹いて”あぁわかりあえた、俺は世界にいていいんだ”と想えた瞬間のきらめきを描いた、確かな名作だなぁと想いました。