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フランシス・フォード・コッポラ『地獄の黙示録 ファイナル・カット』密林の闇に飲み込まれた狂気溢れる戦争の旅路

フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録 ファイナルカット』を観ました。
ここのところみる映画・映像作品が物凄いのばかりなのですが、これはそのなかでも飛び抜ける程のスケール感があり、恐怖を極めているなと。

どうしても語るとネタバレに触れざるを得ないので、どうかまだ未見の方はご覧になられてから読んだ方がいいと想います。

映画のポスター画像で文章が出て来るまで間を取りますので、その間にどうぞ離脱してください。あ、そうそう、この映画、音楽が物凄く好くて。あまりにカッコ良すぎてSHAZAMしてTHE DOORS - THE ENDとかだとか調べてしまったくらいで。先ずサントラの動画も貼っておくので、それを聴いて映画を想ってもよろしいかもしれません。

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映画はサイゴンのホテルで主人公ウィラードが眠りから起きる処から始まります。
ウィラードは戦争に骨の髄まで浸かってしまい、一旦米国に帰るも平時の暮らしに溶け込めず、戦争が忘れられなくて戻ってきたサイコパスっぽい出だしなのですが、この映画の上手い所は、ウィラードが結構常識人的な側面を以て描かれる点。

ウィラードに与えられた指令は、カーツ大佐という男が味方のヴェトナム人スパイをwスパイだと決めつけて殺したことに対する罰に不満で軍を抜け、密林の奥地で現地人を手なずけまるで教祖のような立場で一大王国を築いていると。その圏域はカンボジアまで拡がってしまっているので、どうにかしてカーツを殺せというもの。

この極秘任務のために、目的地を隠してチームで船で川を遡っていく。というのが筋。

で、私は『地獄の黙示録』は今回初めて観たのですが、観る前に想っていたイメージはとてつもないどぎつい狂気が乱舞する作品なんだろうなと。それは実際、船を河まで運ぶミッションの際に航空団の長がワーグナー「ニーベルングンの指環 ワルキューレ」をかけながらベトコンを爆撃するシーン(これは映画館の音響でみたかった!)でいきなりぶちかまされるのですが、ウィラード自身は任務遂行のためのソルジャーとしての冷静沈着さがある一方で、周りがまずこのヴェトナム-カンボジアの密林の戦地に狂って行くという構造で。

ウィラードはその一種傍観者というか狂言回し的な位置で観客の目線に近い位置づけになっているのが、「狂った映画」を撮るにも常識人がいるからこそ狂いへ導けるという点で流石の腕前だなと。

狂気へ導くという意味では、物語冒頭がサイゴンという司令部がある都市の”常識圏”から始まり、川を遡るにつれて段々ベトコンの襲撃が安全圏を犯していく流れがじっくりと描かれて。最初の頃はチームで和気あいあいと楽しそうに話したり戦地ラジオでローリングストーンズのサティスファクションがかかってノリノリになったり、或いは川岸に創られていた米軍の基地でプレイガールの慰問ショーをみたりして愉しんでいたのが、段々密林の奥に行くにつれストレスから皆の精神が追い詰められていって。そして遂にはチームに死者が出て。いよいよカーツの王国の圏域へ入っていく。

そんな時にもコッポラ監督はワンクッション息抜きの場面を入れて。カンボジアでのフランス軍の一家との一夜。ここで安全圏(情事まである)を挟むことで観客も息を整えて、いよいよ本物の恐怖と対面することになるのです。

で、出て来るのが東南アジアのいかにもな遺跡を根城とした現地人信者が狂信するカーツの王国。このマーロン・ブランド演じるカーツ大佐が物凄いカリスマ性で。ウィラードはこの旅路で情報を精査していく内にカーツ大佐のWスパイだから殺したというのは正しいという認識を持ったり、カーツがただの狂人ではないという認知を我々観客にも与えます。この闇の中で顔が暗闇の影に隠れたカーツ大佐の登場シーンはジョジョのDIOみたいだし、そもそも密林奥の遺跡がアジトというのは20世紀少年でショーグンが潜入した麻薬工場みたいだし、Apocalypse Nowが日本のみならずとんでもない衝撃をクリエイターに与え雛形になったのだなと。

カーツ大佐の、詩を詠むマッチョな天海坊主みたいなカリスマ性。この精神性の深さにウィラードも飲み込まれて顔が蔭に隠れていくし、精神が限界までいじめられ屈服と一握りの矜持で何とか持っているところでの心理的死線を越える対決。フィナーレも含めて”描ききった。100%混じりっ気なしの戦争の恐怖がここにあった”と想わせられたッ超弩級の名画でした。こりゃ伝説になるのも納得。

cf




by wavesll | 2022-09-23 17:51 | 映画 | Comments(0)
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