![]() 彼らのリリースやアクションには、例えばコロナ禍でいち早く有料配信ライヴを実施したり、無論D'angeloをものの見事に日本語歌モノにした『Obscure Ride』といい、初期のフィッシュマンズ的な音像といい、私の年が彼らと近いのもあり、トレンドセッター的に捉え、コンセプトを聴いてしまうところはあるのだけど、今作はエンケンの言うところの「純音楽」というかコンセプト云々というよりその時のバンドの純核というか自然に出た音がこれなのかもしれないなと想って。 前作PLMSが出たときは”ちょっと遅くないか?”と想ったものだった。2016年のライヴを観たときからceroがラテンモードに入っていたのを感じていて、実際その頃ってラテン音楽が米国で台頭してきた感があったというか、PLMSが出た2018年の時はちょっとその波が去ったあとの時機を外した感がリアルタイムで聴いてた身としてはあって。ただ逆に1,2年経った辺りで「新しさ」とか「時流」から外れたフェーズで聴いたら、なんかすっごく良くて。だから今作も時を置いて、年末辺りに聴いたらすごく肚落ちするかもなぁと想って。 とはいえ、これは凄くぎょっとする謎めいた盤だった。一度聞いただけでは捉えきれないミステリアスさがあり、それがリピート再生を繰り返させた所以だろう、と想っていたら、あれよあれよという間にTwitterのトレンドに「ceroの新譜」が入り、感想戦の狂騒が始まり今に至り、そしてその感想・考察tweetを読みながら色々な示唆を聴く内にどんどん『e o』の世界に私も入り込んでいったのであった。 リリース当日に呟かれたのは私の感想と同じように「今回はコンセプトはなくつくられたというか、参照元がみえない」という呟き。「コンセプトを設定せずにつくった」というのは『e o』特設サイトで公開された高城さんの寄稿にも記されていて、それを読んでの反応も多かった。 ただ、そんな中でどうやらTwitterの音楽玄人っぽいアカウントが「アンビエントR&B、それも米国でなく英国の」というような記述をしているのを散見して、また具体的なアーティスト名にフランクオーシャンを挙げている人もいて。 それで”あ、なんとなく『Blonde』、今聴いたらいいかも”と想って聴いてみたらズドーーンときた。こ、これは本当にこの空気感こそが『e o』の空気感じゃないか!と。まるで隠された謎の解法を探り当てたような興奮があった。 と、同時にここで白状すると『Blonde』、これまで良さが全く分かっていなかったというか2016年当時に世間で大絶賛されている中で全然ピンと来なくて、放置したまま2023年に至っていた。それが『e o』を経過した耳で聞くと感動が波濤のように押し寄せるじゃないか、なんてこった、こんな巨大な感動をみなは10年代に味わっていたのか。俺は浦島太郎じゃないか、と。 私が当時『Blonde』に取っつきずらかった理由は今聴いてもわかる。音が平板で、聴いていて雫ル感がないのだ。この盤の中盤から後半にかけてはかなり激しい展開もあるのだが、特に出だしの2,3曲の音のチープさが結構きつくて、「Thinkin bout you」みたいな美メロもないし、脱落していた。 その点を『e o』を聴くと補完できるというか、『e o』のセノーテのように澄明な深度のあるサウンドプロダクションのリッチさが、その流れで『Blonde』を聴くとオーヴァーラップして本質的な音楽の空気感を味わう聴取体験へ連れて行ってくれる。もし私の他に”『Blonde』、みんな褒めてたけどイマイチわかんねーんだよなー”という御仁がいらっしゃったら是非『e o』を聴いてからの流れで試されて欲しい。 さて、Twitterではますます「ceroの新譜」が盛り上がっている。ミナスなどの名も挙がっている。確かに、アンビエントR&Bを単にやろうとしたのではなく、PLMSからの南米の地続きなミナスなどの現代ジャズのビート・アンサンブルに加え、やはりこれを日本語の歌モノ、JPOPとしての、孤高ではあるがイマ鳴らすべき邦楽として成し遂げたのが凄いよな…などと考えつつ、”ただ、単純にこうした「元ネタ探し、イースターエッグ探し」は表現者が望んでいることでは、特に今回に関しては違うよな”と想って。この『e o』という表現に、そのそのものに向き合いたいと。 そして聴く。単純に、とてもブルーな基調が音にある。コロナ禍で様々なアーティストが内省的な作品を書いていたが、私はそれをそこまで聞かず、新旧の名盤珍盤Digなどで騒がしく過ごしていたから、こんな盤の音は非常な異物だった。私はネットとかもあったしコロナ禍3年はみようによっちゃ楽しく過ごした点もあるのだが、cero『e o』で死後の世界のように生体活動が停止した東京の数年間を突きつけられたというか。ここまでシリアスなトーンのアルバムに久しく触れてなかった、楽しい音を聴いてたから。再生した時ぎょっとした。 そういう、このコロナ禍で意識的に遠ざけていたトーン、心象風景に『e o』をかけると否応なく巻き込まれる。それは”こんな世の中だけど頑張ろうぜ!”でもなく、ただ淡々とこの寂寥な世界を記述した歌。その点で『e o』は私の中ではこのコロナ禍以降において実に異質な聴取体験をくれるアルバムだった。 東京が水中に沈んで人がいない中をスキューバダイビングしてる様な、空中を幽体となって浮遊し様々な風景を眺めているような人間存在の不在な都市を観察しているというか、“ああそうか、俺はSNSというネトゲーをしてたけど、物理的には東京は死んでいたんだな”、という感じ。まぁ実際にはこのコロナ禍中私は美術館とかで幾度か横浜から東京都入りしていて都に人の生は存在していることを知っているけど、ミュージシャンの心象風景を目撃したなという感覚が、この盤を聴くとある。 これは歌詞からというか、Apple Musicを流しているだけだったから、歌詞の理解は断片的な中でサウンドとして『e o』を聴いての感想で。その後webに歌詞が載っているのを観ながら聴いて、そう外してなかったなと。「タブローズ」の「ほのめいた鳥たちが燃え広がって木霊して」など思ってたよりTwitterのこととかも歌われていた。「Fdf」をつくったときはコロナ禍本格化前で、当時はもっとメタバースな世界を唄ったアルバムになる予定だったのかなとも思った。そしてパウル・クレーの画の名を冠した「アンゲルス・ノーヴス」で「兆し」として示される「透明な未来」の仄かな希望の調で終わるのと、リリース時期がコロナ禍から脱しようと政策転換後なのも良かったかもしれないというか、コロナ禍真っただ中にこれを聴いたら相当辛かったと思われる。それでもceroの知性は「嵐が来る」可能性を警鐘として鳴らすのも忘れないのも好かった。 ただそうなると逆に歌詞を知ってしまった弱みでサウンド体として洋楽を聴くようには『e o』を聴けなくなって。その意味で、最初にかけたときのあのサウンドの水深の奥行きを堪能できたのはかけがえのない体験だった。 さて、そして先ほどCINRAで高城さんと荒内さんのインタビューを読んで。色々な答え合わせというか、制作の様子や想いが語られていて。コーラスはほとんど高城さんの声のみでつくったのか。そしてなんとFrank Ocean『Blonde』への言及もあって。なんか色々なものが結実した上で、そのアンビエントR&Bという世界観をさらに進化し深化させたサウンドが、涌き出ずる水のように自然と沁み出でてきたのが『e o』というアルバムだったなぁと。いやぁ、すっかり嵌ってしまった。正直に言ってこんなに聴き込んだアルバムは久方ぶりだ。まだまだ聴いてこのアルバムから私なりの解を彫り出していきたい。
by wavesll
| 2023-05-26 21:05
| Sound Gem
|
Comments(0)
|
ブログパーツ
カテゴリ
タグ
最新の記事
以前の記事
2026年 02月 2026年 01月 2025年 12月 2025年 11月 2025年 10月 2025年 09月 2025年 08月 2025年 07月 2025年 06月 2025年 05月 2025年 04月 2025年 03月 2025年 02月 2025年 01月 2024年 12月 2024年 11月 2024年 10月 2024年 09月 2024年 08月 2024年 07月 2024年 06月 2024年 05月 2024年 04月 2024年 03月 2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 2023年 05月 2023年 04月 2023年 03月 2023年 02月 2023年 01月 2022年 12月 2022年 11月 2022年 10月 2022年 09月 2022年 08月 2022年 07月 2022年 06月 2022年 05月 2022年 04月 2022年 03月 2022年 02月 2022年 01月 2021年 12月 2021年 11月 2021年 10月 2021年 09月 2021年 08月 2021年 07月 2021年 06月 2021年 05月 2021年 04月 2021年 03月 2021年 02月 2021年 01月 2020年 12月 2020年 11月 2020年 10月 2020年 09月 2020年 08月 2020年 07月 2020年 06月 2020年 05月 2020年 04月 2020年 03月 2020年 02月 2020年 01月 2019年 12月 2019年 11月 2019年 10月 2019年 09月 2019年 08月 2019年 07月 2019年 06月 2019年 05月 2019年 04月 2019年 03月 2019年 02月 2019年 01月 2018年 12月 2018年 11月 2018年 10月 2018年 09月 2018年 08月 2018年 07月 2018年 06月 2018年 05月 2018年 04月 2018年 03月 2018年 02月 2018年 01月 2017年 12月 2017年 11月 2017年 10月 2017年 09月 2017年 08月 2017年 07月 2017年 06月 2017年 05月 2017年 04月 2017年 03月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 12月 2016年 11月 2016年 10月 2016年 09月 2016年 08月 2016年 07月 2016年 06月 2016年 05月 2016年 04月 2016年 03月 2016年 02月 2016年 01月 2015年 12月 2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 2007年 08月 2007年 07月 2007年 06月 2007年 05月 2007年 04月 2007年 03月 2007年 02月 2006年 12月 2006年 11月 2006年 10月 2006年 09月 2006年 08月 2006年 07月 2006年 06月 2006年 05月 2006年 04月 2006年 03月 2006年 02月 2006年 01月 2005年 12月 2005年 11月 2005年 10月 2005年 09月 2005年 06月 2005年 05月 2005年 04月 2005年 03月 2005年 02月 2005年 01月 2004年 12月 2004年 11月 記事ランキング
最新のコメント
最新のトラックバック
link
世界のあいさつ
世界経済のネタ帳 The Global Jukebox everything is gone 第三の波平ブログ LL (枇杷) aktkta 「あき地」 ぁゃιぃ(*゚ー゚)NEWS 2nd Antenna SHUMAMB_CLTR 海外の反応アンテナ ヤクテナ 阿木 譲 a perfect day 黒夜行 耳の枠はずし Pirate Radio スーパーリスナーズクラブ togetter dezire_photo & art BOX 琥珀色の戯言 はれぞう bohemian rhapsody in blue 極東BLOG 終風日報 道草 金子勝ブログ とうきょう砂漠のアレクサンドリア iGot ドM 冬眠 アッチャー・インディア HITSPAPER まなめはうす RinRin王国 あなたのノイズ、わたしのミュージック。 酔拳の王 だんげの方 Kain@はてな miyearnZZ Labo Nest of innocence 小生にうず 曲名探偵団 AbemaTV UNI(うに) FNMNL Tenderhood. 反言子 ugNews.net JUN THE CULTURE おもトピ Hiro Iro 小太郎ぶろぐ みずほN◇MIZUHO(N) 面白法人カヤック コロコロザイーガ学園 NOT WILD STYLE TATAKIDAI 「ニーツオルグ」保管ページ わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる ゴルゴ31 !DESIGN, iDESIGN ヤマカム 小さい研究所 BLACK徒然草 できそこないβ版 チェコ好きの日記 404 Blog Not Found SHE Ye, Ye Records LOS APSON? EL SUR RECORDS Art into Life Meditations more records 240雑記 Hagex-day.info amass TRiCK FiSH blog さて次の企画は ねたたま 神魔精妖名辞典 朝目新聞 虚構新聞社 荻上チキ Session22 メディア・パブ ポリタス 天漢日乗 暗いニュースリンク 溜池通信 純喫茶アカザル(ほぼ音楽喫茶) とっぴんぱらりのぷう Plogect::Logistica 先見日記 SYNODOS 週刊ソラミミスト nardo 山田ズーニーの「おとなの進路教室。」 RaziChord / Nakayubi / Nine-Hz ゾウィの音響徒然日記 音のソノリティ Musica Terra 日本の古本屋 adabana 林揚羽 俗窓 カフェー こむぎ はてブニュース 東外大言語モジュール Y.D from夢中夢 ダイドーグループ日本の祭り Font In Use ガチャガチャブログ retrievr Neave Interactive Mediachain Attribution Engine Ostagram ディープネットワークを用いた白黒写真の自動色付け Radio Garden 最終防衛ライン3 ※コメント・トラバ大歓迎。 ※このサイトで使用している記事・画像は営利目的ではありません。リンクなど、問題があればコメント(非公開でもかまいません)を下さい。対応します。このサイトの内容を使用して発生した損害等に関して、直接的間接的あるいは損害の程度によらず、管理人は一切の責任を負いません。 鴎庵はリンクフリーです。はずすのもご自由にどうぞ。 ライフログ
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||