Tero Saarinen Company: Transit (2020) Trailer (Vimeo)
爪先から脳天まで突き抜けるように心揺り動かされるダンス、プレミアムシアターでバレエやオペラを見始めて数年になりますが、本当に時折、年1くらいでこういうずば抜けた衝撃を受ける作品との出逢いがあります。
フィンランド・ヘルシンキをベースとするコンテンポラリー・ダンス・カンパニー、テロ・サーリネン・カンパニーによる『トランジット』。
Transitを直訳すれば「通過」。「トランジット」は航空の乗り換えなんかでも外来語として使われてますね。私はこのダンスに於ける意味としては「生命、遺伝子の揺りかごとしてのこの40億年超の物語」であるのではないかなと想いました。
始まりは舞台上で横たわり蠢くダンサーたち。その上には銀河のような星空のクラスター。隕石からこの星に齎された生命の萌芽が、単細胞生物として原始生命が徐々に徐々に、細菌やプランクトン、珊瑚のような原始生命、或いは魚類?へ進化変幻していくさまがダンスとして顕わされるように見えて。電子音でのダンスはなんとも心臓を鷲掴みにする魅力があって。
そして再び天啓のようなスポットライトがダンサー独り独りに次々と照射されて。ここでの悟り、一つの生命の跳躍は、海から陸への繁殖圏の拡大ではないでしょうか?植物、両生類、爬虫類、あるいは昆虫?何の言葉も語られないけれど、もしかしたら恐竜?象?そして鳥類?のような生命の歩みが踊られているように読み取れて。
そこで大きなテーマ、変化としてもたらされるのが「雌雄」ということ。雄と雌が生まれ、交わっていく。最初はぎこちないコミュニケーションが、段々と雄と雌、つまり家族、群れ、あるいは社会?を予見させて。そこには地球に訪れた過去の気候変動によるカタストロフも表現されている気がしました。この歩みでの音楽は管弦楽、それは生命の躍動を示しているのかもしれません。
そこから後半にまるで光陰矢の如しのように描かれる人間という存在。人々の影絵たちが浮かび上がらせる怒涛な歴史は、思えば生命40億年からすればあっという間の出来事かもしれません。
そして訪れる無音の白光。再びの電子音、また動きが非常に抑制され緩慢な、一種の宗教体験をしているかのようなダンス。私はこれはもしかするとAIなどの珪素生命体とでもいえる存在の時代を表しているのではないかなと。彼らには2023年現在、肉体のフィードバック感知が欠けていると想いますが、初期にあるロボティクスの「躰」の認知が踊り画いている気がして。地球生命における巨大な区切りがもしかすると生まれ出ずることが起きているのかもしれない、そんな啓示を持ってダンスは終わります。
ちょっとこのようなダンス鑑賞体験は、稀なレベルの感動を齎してくれますね。それは一種の予言でもあり、脈々と営まれるこの星の歴史の語り部との出逢いのような、そんな時間でした。