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Nueva民謡シーン 廣域かつ極私的な倭トラッドなバンド・祭・ディスクガイド

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ここ数年、民謡シーンが新しい動きで盛り上がっているというか、メジャーシーンでもBjörkが民謡をDJで回したりMISIAのようなアーティストが小林武史と桜井和寿と組んでbankbandで祭囃子を楽曲に取り入れたり、イマの感性で民謡をブラッシュアップして演奏するバンドが活躍し、一種Nueva民謡シーンといえるようなものが隆盛を呈しているというか、この十年くらい自分もどっぷりその世界に浸ってDigって来たもので。一度そのリスニングのことを一記事に纏めたいなと想い、この記事を認めることにしました。

ここで「Nueva民謡」というコトバの定義をお話ししたいと思うのですが、狭義としては民謡的な要素を軸として新しい感性で鳴らすバンド・DJ・盆踊りという意味で造ったコトバですが、この記事ではいわゆる「シティポップ」並みに非常に定義が曖昧な広義の日本伝統音楽要素のある音楽、くらいの意味で考えてくださると助かります。

1. Nueva民謡シーンへの入り口であり二大巨頭、俚謡山脈と民謡クルセイダーズ













この界隈へ足を踏み入れることになった始まりは"民謡で躍らせるDJユニット 俚謡山脈というのがいるぞ”というもので。神宮前のbonoboで開かれたパーティへ行って、狭いクラブの中で鳴らされる濃い民謡のグルーヴに新しい世界が開かれる思いがして。

俚謡山脈がワンアンドオンリーであったのは民謡を原曲のまま、つまりClub Mixとかでビートとかで装飾することなく、民謡のレコードの熱、滾りそのままでグルーヴや美しさを鳴らしたということ。それでいて完全にイマの感性で聴いて踊れる、アガる音になっている。これがNueva民謡の入り口となってくれたことで、とても肥沃な音楽世界へいざなってくれたと思います。

EMレコードからリリースされている俚謡山脈が発掘した民謡の音源たちもコアであり魅力にあふるる楽曲たちばかりで、Soi48主催のパーティーでも、あるいはNHKFM「民謡沼めぐり」や「民謡をたずねて」での彼らの番組でも民謡の越境性だとか、とても知見に満ち、Soi48のブッキングをみてもストリートに根差した民謡の世界をレコメンドしてくれている彼らの活動からは目が離せません。

そしてイマのNueva民謡シーンの顔といってもいい八面六臂の活躍をしているのが民謡クルセイダーズ。福生をホームタウンとしながら、民謡をクンビアなどの中南米のリズムで演奏する彼らの唯一無二のスタイルは海を越え人気を博していて。最初にライヴをみたのは東京JAZZでの野外ライヴだったかな。年々活動のスケールが上がっていて、欧州ツアーをしたり、東京キューバンボーイズとの対バンや、あるいはフレンテ・クンビエロとのコラボ楽曲を出したり、本当に台風の眼となっていますね。彼ら抜きに今のNueva民謡シーンの隆盛は語れないでしょう。

また民謡クルセイダーズのヴォーカルのフレディさんが参加されている民謡ユニットこでらんに~も見逃せなくて、エチオピアのバンドとの交流なんかもしていたり。よくエチオピアンジャズは演歌っぽいなんて話もあったりしますが、民クル界隈の活動はワールドワイドに渡っていて、本当にわくわくさせられます。

2. Nueva盆踊りシーン







そんな俚謡山脈と民謡クルセイダーズも出ていたのが、高円寺の付近の大和町で開かれるDAIBONという盆踊り。岸野雄一さんがオーガナイズするこの盆踊りは坂本慎太郎などの素晴らしいアーティストが出たり、スマッシュヒットチューンで盆踊ったり、イマの新しい盆踊りシーンの代表格ともいえる催しで、私が行った2日間も本当に素敵な時間を過ごせました。

今は中野のボンジョビ盆踊りとかたちかわ妖怪盆踊りとか新しい盆踊りもどんどん生まれている中で、東京でも河内音頭や郡上踊りが楽しめたり、考えてみると私が日本の伝統音楽に目覚めたのもたまたま高円寺の阿波踊りの超絶GROOVEに遭遇したからというのもあるかも。東京地場の盆踊りでも佃島の盆踊りや、恵比寿の盆踊りでもオリジナル曲があったり、本当に町々でオリジナリティのある盆踊りがありますよね。我が神奈川でも葉山の砂浜で生バンドでの盆踊りがあったり。コロナ禍を挟んでイマまた盆踊りシーンが盛り上がるのは喜ばしいことですし、民謡の最も身近な本領発揮の場でもありますね。

3. Pre民謡クルセイダーズから現在までのNueva民謡シーンな音楽グループ









民クル以前から民謡的なバイブスを取り込んだバンドサウンドを鳴らしているグループとしてアラゲホンジや馬喰町バンドなんかは知っていて。またこの数年でアフリカングルーヴと祭囃子を掛け合わせたようなAJATEや祭囃子太鼓パーカッション・パフォーマンスを魅せる切腹ピストルズやJAZZ X お囃子な吉原祇園太鼓セッションズも台頭してきて。こうしたグローカルな、民謡を現代化する試みはLEENALCHIChudahye ChagiといったSsingSsingに連なる韓国のバンドでも同様の動きがあって、全球的なムーヴメントなんだなと。

そして個人的にイマ一番の新星だと思うのがブルガリアンヴォイスやトゥヴァの喉歌を”あんこ”として民謡に入れてくるすずめのティアーズというグループ。そうしたマージナルな活動で言うとジンタらムータのプログレッシヴなチンドンサウンドも外せない。

さらにちょっと毛色は違いますが、ビートメイカーの世界でも冥丁の作品群は和をモチーフとしていて。さらには蟻アントなんて民謡とビートメイクを融合昇華するユニットも出てきて。これらの胎動は中国のHowie Lee ‎– 7 Weapons SeriesTZUSING - 東方不敗、あるいは韓国の250 - PPONGなどとも呼応するアジアの自国のアイデンティティに根差した電子音楽のシーンの一角を形成していると想います。

そしてそんなアジアも巻き込んだ橋の下世界音楽祭を2012年からオーガナイズしてきたのがTURTLE ISLAND。彼らが今年始めた遊睦民祭も神楽や講談・浪曲なども巻き込んだ豊かなこの国の音楽を鳴らしてくれて。フェスでいうと荒吐ロックフェスでも秋田民謡や西馬音内盆踊りも出演してたりしますよね。こうした下地の中でNueva民謡シーンは育ってきたのだなぁと。

4. メジャーアーティストや他ジャンルによるNueva民謡な音楽














他ジャンル(というと語弊があるかもしれませんが)アーティストによる民謡的なバイブスに取り組んだ音源の中で最も成功しているのは折坂悠太『心理』での「心」だと思います。この歌心は凄い。

さらにコアなところだと赤い鳥がライヴ盤で披露した「もうっこ」はナベサダさんの金管が吹き荒ぶとんでもない楽曲で。

ガツンとクる音で行ったらNUMBER GIRL「Num-Heavymetallic」を始めとして、THE MOPSが阿波踊りをロック化させたり空気公団が津軽民謡をポストロック化させたり。こうしたフュージョンでいうとラッパーのHUNGERが和太鼓をビートとしてつくった『舌鼓』は意欲的な日本語HIPHOPであったりして。寺内タケシや井坂斗絲幸社中 喜楽座の津軽三味線にはギタリズムを感じたりも。インストだと三橋貴風がホーハイ節を尺八JAZZ化したものも。

フランス人のPoiLとBenoit Lecomteそして日本の伝統音楽歌手であり薩摩琵琶奏者のJunko Uedaのバンド、PoiL Uedaによる「壇ノ浦」も現代琵琶法師音楽というか、これも凄く刺さったなぁ~。

箏を現代ジャズ化させたという点では道場(八木美地依&本田珠也)も取り上げたい。

その流れで言えばTim Heckerが雅楽のアンサンブルと組んだライヴは日本伝統音楽のアシンメトリーさとエクスペリメンタルな電子音楽がアウフヘーベンして物凄いことになってましたし、ブルガリアンヴォイスと笙なんて公演もありましたね。

本邦の大御所石川さゆり姐さんも民謡三部作をリリースしていて。石川さんはKREVAやMIYAVIとコラボしたり、伝統と革新に意識的に活動されてますね。


さらには気鋭のギタリスト笹久保伸がmarucoporoporoporoとのライヴで魅せた『秩父遥拝』と『CHICHIBU』の先の仕事唄のパフォーマンスも特筆すべき素晴らしさでした。 

そしてわざわざこれを聴くためだけに沼津まで行ったのが『松籟の祀り 燦々ぬまづ踊りのテーマ』。地元のイベントの為に浦田恵司さんが作編曲した『ススト』のようなフュージョンサウンドが祭囃子と融合した傑作レア盤で、本当に沼津まで行った甲斐がありました。

民謡と神道音楽というのはまた異なるジャンルだと思いますが『神々の音楽 — 神道音楽集成 —』は神社神道の祭祀音楽(宮中祭祀を含む)、黒住教、金光教、大本など教派神道系の祭典楽、民俗芸能における祭祀音楽(神楽系、田楽系、祭礼囃子・風流系)の三系統に分けて、日本神道の代表的な祭祀音楽を収録したもので、採音的な面白さもある盤として、民謡からさらにコアへ進みたいときにお薦め。

さらに一味違った民謡世界として、鳴響や渋響といった温泉地での電子音楽フェスがあるのですが、これがね、い~い湯治な電子民謡なんですよ◎涼音堂茶舗では音源も販売していて、これを始めてPirates Radioで聴いたときは痺れたな~。

そしてこれはちょっと吃驚な一手かもしれませんが、島倉千代子さんとかの音楽ってとても清らかだったり、盆踊りにも根差していたり、歌謡曲・演歌への道もNueva民謡を聴いていると開かれていくところはあると想います。

5. 日本民謡大観 on Apple Music


俚謡山脈や民謡クルセイダーズのTwitterを追っていると幾たびも名前を聴くことになる音源が『日本民謡大観』。NHKが戦前から約半世紀にわたり継続して刊行した図書で、日本各地の民謡をその土地の演唱者の協力を得て収集した民俗音楽資料のこの盤たちが、実はApple Musicで聴けるんですよね。

これは聴かねばならんと半年くらいかけて全90枚を聴き通して。その感想レポが上の2本の記事に纏めてあります。

日本民謡大観を聴くことで、”あぁ、民謡と演歌ってのは違うんだな”というのが体感出来たり、“日本人の音楽はつまらなく、欧米やアフリカにこそ本物があり日本はコピーだ”みたいな偏見が消え「日本の音楽」のプリミティヴさがホント良く分かって。日本人自身こそが最も自分自身の音楽を見限り、「邦楽/JPOP」を“ここからここまで”と狭いところに押し込めているのかもなと。日本民謡大観を聴くとビートミュージック的な先進的センスだけでなく、アフリカあるいはブラックミュージックな美味しさ、またラウドなセッションの爆発力に、ワールドミュージックなエッセンスまでが次から次へと鏤められて。これらの感性は「輸入」でなく、古来からあったのだということが分かったのが一番の収穫でした。

6. 阿波踊りやハイヤ節などのさらなる民謡個別DISC





さらに民謡の個別DISCを聴き深めていきたいと聴いたのがこれらのCD。特に『ぞめき』シリーズの第一作、高円寺阿波踊りの連の音源は、私自身の和モノグルーヴの原体験だったのでとても深く心に染みわたるものがありました。個人的にはこういう音源はWebでみつけるよりも渋谷タワレコの試聴コーナーで知ることが多かったですね。

7. アイヌ音楽、北方世界への道



さて、『日本民謡大観』ではあまりに取り上げられなかった音楽として、アイヌの音楽があります。私の中でアイヌ音楽の決定版といえば文化庁のサポートの元1970年代に録音された『アイヌ・北方民族の芸能』で。現代の歌い手でいえば安東ウメ子さんはとてもオーセンティックに感じたし、OKIさんによる取り組みや、MAREWREWなど、今もアイヌのスピリットを伝えてくれる音源は多いなと想います。

またアイヌの音源を聴く中で樺太、そしてシベリアへ視座が広がって行って。シベリアの民族、チュリム人のバンドであるOTYKENのヴィジュアルなんかはアイヌにも通じるものを感じるし、またイヌイット音楽のアルバム、『ᐊᕐᓇᐄᑦ ᐳᕕᕐᓂᑐᒥᐆᑦ ᑲᑐᑦᔭᑐᑦ ᐊᒪᓗ ᕐᑲᓂᕐᐸᓗᑐᑦ』なんかを聴くと北方世界はユーラシアだけでなくアラスカへのグレートジャーニーとしての広がりすら感じたりして。日本列島の民謡からアジア大陸へ広がっていくと、『天籁, 中国少数民族原生态民歌典藏』のような中国民歌やChirgilchinのようなトゥバのホーメイさらにはテュルク世界の音楽から欧州世界の民俗音楽にも繋がるところがあって、グローバルな民謡世界への入り口にもなるなとトーシロながらに想ったりもします。

8. 奄美・琉球・先島、南方への道

『日本民謡大観』はレコードでは奄美・沖縄編も何十枚にも渡ってあったのですが、CD化・サブスク化がされておらず。そこで私自身の個人研究というか、リスニングを続けていく中で九州から島伝いに南方へ辿る道を形作ってみました。

勿論、これまでの項目もそうですが、Nueva民謡的な感性のある音源は無数と言っていいほど出ているので、あくまで極私的な道標ということで、どうぞご笑覧ください。










実際に入手したりライヴに行ったりしたのは順序が違うのですが、これ、上から日本地図で言うと北から南へ島々をめぐるかたちで並べていて。

個人的に脳内がスパークしたのは屋久島の古謡「まつばんだ」が琉球文化圏とヤマトの文化圏をつなぐマージナルな音楽として存在していることを知ったこと。

元ちとせさんのシマ唄アルバムは奄美のセントラル楽器で買って。本当に澄んだ声で。奄美の唄い手である平田まりなさんがハンドパンとシマ唄の音源を出すなんてNuevaな試みもあったり、朝崎郁恵さんの生歌で聴く「新日本風土記」のテーマである「あはがり」は沁みました。NHKはこの他も「よみがえる新日本紀行」とか不意に地場の民謡が入る番組があったり、NHKラジオ第2「音で訪ねる ニッポン時空旅」なども聴き逃せません。さらに奄美竪琴の盛島貴男さんなど、沖縄だけでなく奄美の芸能の豊かさにも目を向けたい。

そして徳之島とか小さな島にも独自の文化がそれぞれあっていい歌が多いんだこれが◎そして勿論沖縄本島の民謡たちの魅力の深さ◎やっぱりここは凄い。国際通りのネーネーズを始めとしてトラディショナルな音楽と生活が密接に繋がっていて。芸能の島の豊饒さからうないぐみ - 童神のような新アンセムも生まれて。さらにはイザイホーのような神事の音源もありつつ沖縄民謡をDub化したHARIKUYAMAKUというNuevaな音楽体もいたり。

最後にあげた『かなす』シリーズと『南嶋シリーズ』を手掛けたのは久保田麻琴さん。久保田さんは上に上げた阿波の『ぞめき』シリーズや『阿波の遊行』などもリリースしていて、本当に日本のトラッド音源発掘を語るうえで久保田さんの仕事を外して語ることは出来ません。

民謡という意味では例えば与那国からすぐ台湾原住民の音楽なんかとの関連性も探りたいし、琉球の宮廷音楽「御座楽(うざがく)」からはヴェトナム雅楽であるニャーニャックなどへの音楽的な繋がりも見いだせたりしますね。

9. 私のNueva民謡な音楽原体験



私がこれほどまでNueva民謡シーンに嵌ったのは何故かを想えば、勿論日本人ですから日本の音楽が魂の根っこに共鳴するところがあったのだと思うのですが、そもそも私が初めて買ったシングルってサザンの「愛の言霊」で。

この和の抒情を感じさせながらまるで聞き取れないくらいに崩された発音の謡い、案外、上で挙げた『PATILOMA 波照間 古謡集1』などでもそうですが古代琉球語ではハ行がパ行として発音されたり、古代日本語ではハヒフヘホがファフィフュフェフォだったなんて話もありますし、そういった意味でもプリミティヴな魅力にも惹かれたのかもw

なーんて与太話に続いてもう一つ小噺をすると、私が最も多感であったであろう高校生の時に出会ったソウルフラワーユニオンの『スクリューボール・コメディ』の沖縄やチンドンなどのトラッド・チャンプルー・ロックの魅力に心奪われて、RIJF2001で当時『VIVA LA REVOLUTION』でバリバリだったグラストリのDragon Ashでなくレイクトリのソウルフラワーを観に行ってw恐らく私はこういう選好で生きてきたとこあるんでしょうw

神宮前bonoboで俚謡山脈を初めて観たのが2016年、そして「愛の言霊」がリリースされたのが1996年。この10年弱とも、あるいは30年弱ともいえる音楽リスニングの一つの収穫として、この記事が読者のみなさまのいい音楽との出逢いの援けになったら幸いです。長尺の記事を読んでくださりありがとうございました。

by wavesll | 2023-09-29 00:00 | Sound Gem | Comments(0)
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