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舞台『シラノ・ド・ベルジュラック』剣士にして詩人の秘めたる恋物語

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シラノ・ド・ベルジュラックというと想いだすのはONE PIECEの尾田栄一郎さんの初期短編集『WANTED!』の一篇にシラノという剣豪が出てくる話があるのですが、このBS松竹東急で流れたブロードウェイの舞台はその大本である、エドモン・ロスタンの戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」に描かれた実在の剣士であり作家であり哲学者であり理学者の恋物語。

剣の腕は1対100でも勝つほどの強さを誇るシラノ・ド・ベルジュラックのコンプレックスは大きな鼻。醜い相貌だと恋するロクサーヌにも内心を打ち明けられない。いとこであるロクサーヌから恋の相談を受け、その恋慕の相手、クリスチャンと話すとクリスチャンは見た目はイケメンだが頭が弱くて愛の言葉一つもまともに紡げない。そこでシラノはクリスチャンの愛の言葉のゴーストライターとなってロクサーヌに愛の言葉を贈り続けるが…というお話。

舞台表現としては序盤にシラノが決闘する場面があるのですが、フェンシングに基づいた殺陣は普段時代劇の殺陣を見慣れてる身からすると新鮮でしたね。

古くは騎士道物語でもそうであるように、姫との秘めたる愛、報われぬ恋なんかが主軸になりつつ、戦場でのガスコン魂の見せ場もありますが、なんといっても一番の主眼はシラノが紡ぐ愛の言葉たち。ロクサーヌは直截的な肉欲にまみれたストレートな求愛を嫌い、詩情豊かな愛の表現を「魂の美」として時めきを感じる女性で。

今風に言うとシラノはクリスチャンという青年の体をVtuberのアバターのように使って、自分本来の魂の美しさ、愛の深さを表現していたのですが、当然クリスチャンもロクサーヌを愛していますから、そこでの衝突もあって。物語の線としてシラノはロクサーヌ以外の女性には”醜い”と毛嫌いされていたという設定で、そんな中で真っ当に人間の男としてみてくれたロクサーヌに惚れぬきつつ、自分のルックスの悪さを気にして尻込みしてしまうシラノのいじましさ何かもよくあらわれた舞台でしたね。そしてなんといってもそれを肉付けする言葉の表現の豊饒な華麗さが素晴らしい。

またちょっと本筋とは逸れますが、美青年というのは勿論女性からは大いに好感を得るものですが、案外男は男でイケメンってのには好感を持つというか、ルサンチマンがありつつも”そんなことを気にするのは男らしくない”というプライドと”美男子への好感”っていう美意識が、アンビバレンツを持ちながらもあるんじゃないかなぁと想ったりします。ただ、今、ものすごい勢いでジャニーズ事務所が叩かれているのはジャニーズが体現する美少年ってのは男が好むイケメン像からはかなり離れた、ふにゃふにゃなショタコンみばかり、というところもあるのかなと。exTOKIOの長瀬なんかは男も好きだとは思いますけどね。

そう思うとシラノの、ストレートに愛を告白できずにクリスチャンの躰を借りてコミュニケーションするのはバ美肉おじさんというか、非常に現代的なルッキズムの戯曲でもあるなぁなんても想いました。

by wavesll | 2023-10-15 06:45 | 舞台 | Comments(0)
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