Berg, Wozzeck (Erich Kleiber/Covent Garden/1953)
「ヴォツェック」を観ました。
このオペラは1821年に実際に起こったヨハン・クリスティアン・ヴォイツェックという名の元兵士の情婦殺人事件をもとに書かれている。貧しい床屋上がりの兵士が、鼓手長と通じた内縁の妻マリーを殺すという陰惨な内容の物語で、当初ドイツの劇作家ゲオルク・ビューヒナーの未完の戯曲だったのですが、WWIにも従事したアルバン・ベルクが完成させて。
20世紀のオペラは殺人事件にしても往年のヴェルディ『エルナーニ』のような優雅な味わいというよりも人間心理に迫るシリアスで陰鬱な雰囲気を奏でるものが多いですが、特にこの「ヴォツェック」は私たちの生きる現代とも地続きというか、時代劇をみるというよりも現代劇としてみれましたね。
経済的な理由からか内縁の妻との間に息子がいるも結婚をしていないヴォツェック。少しでも足しになればと治験?のような人体実験に身を晒しているが、内縁の妻からは「家族に関心がない」とみられ、その心の隙間を衝かれたか、あるいは金のイヤリングに誘惑されたか内縁の妻はヴォツェックの職場(軍隊)の男に抱かれてしまう。
ヴォツェックは今でいうと弱者男性のような側面もあるのですが、昔の男は自分の女が公衆便所みたいになったことを知ると絶望から刺殺にいたるのが、例えば近年の漫画『ボーイズ・オン・ザ・ラン』では嫌みの一つを女に言うのがやっとくらいに日本男児は破壊性を失った感はありますが、時代はジェンダーフリーですから、このオペラが作られた時よりもより創作の現場としては女性の主体性を描くようにフォーカスがシフトしている最中なのでしょうね。
陰鬱で救いのない話なのですが、そこまで重ったるくなく、舞台演出もシンプルながらラストシーンあたりの沼の描写とか、なかなかみるべきものがありました。