この一年間に聴いた音楽の年ベスという名の語り。次はアラブを中心とした地域。
よく「音楽に政治を持ち込むな」なんて言いますが、この地域の音楽を今リスニングするに当たっては、自らの政治的な立場が浮き彫りになってしまう、非常にセンシティヴな地域ではあります。ちょっと言葉が過ぎてしまうかもしれませんが、自分の考えを述べつつ、音楽をご紹介できればと。
3. 中東・北アフリカ
1) イスラエル
いま最も扱いが難しいのがイスラエル関連の音楽でしょう。何しろ今イスラエルが行っているジェノサイド・戦争は悪虐極まりないもので、そのスティグマは”経済的な利益を彼の地の人間にもたらしていいのか”というロジックでイスラエルのミュージシャンにかかってくるのは、ある意味で当然とも思えて。
イスラエルというとジャズなどで卓越した音楽をやっているミュージシャンも多いですが、私としても聴くとか紹介するとかは二の足を踏みがちというか、音楽家自身のこの戦争への立場・意見表明を確認したいなと想うところはあります。実際にかの地に住んでいれば口をつぐまざるを得ないかもしれませんが。
そんな中で、今年、惜しまれつつ番組終了したOriental Music Showでサラーム海上さんが番組テーマ曲にしていた、イスラエル人によるアラブ音楽楽曲で両方でヒットした「Habib Galbi」は、本当は音楽が為すべき理想が体現されているなと想いつつ、現実の暴虐の前で、非常に荒涼としたことが起きてしまっているなと想います。
2) オリエンタル・エレクトロニクス
再びイスラエルの話題というか、戦闘となっているレバノンの音楽。レバノンというとカルロス・ゴーンの逃亡先でもありますが、彼の地にはこんなにも刺激的な電子音楽があるんですよね。
この愛聴音楽暦の1で取り上げたトルコもそうなのですが、中東・北アフリカ地域ってかなり電子的なポップがいいのが多くて、民俗的な音楽を進化させるうえで非常に感覚があったのか、物凄い好いものが多くある印象で。アルジェリアのライ関連とかここら辺、Oriental Music Showがよく取り上げてくれていたので非常に惜しいですね。情報源の消失。
3) モロッコのグナワ
グナワってモロッコなどの伝統的な音楽の一家、一族としての音楽伝統芸能なのですが、ここにも新風が起きていて。今までは女性はグナワ・マスターになれなかったところが、初のグナワマスターの女性が生まれたり。またグナワ自体も音楽的にブラッシュアップされたものが生まれていたり。「アップデート」は北アフリカの地でも起きていますね。
4) オリエンタル・ロック、オリエンタル・メロディー
ターキッシュ・ロックやいわゆる「砂漠のロック」なんかもそうなんですけど、今ギターヒーローって中東からアフリカにいるなって気がします。それはもしかするといわゆる男性性への肯定的なヴァイブスは、ポリコレが進む欧米よりもアラビアを中心とする地域にあるのかもななんても思ったり。
そしてアゼルバイジャンと紛争地域を抱えるアルメニア、ここもロシアの勢力圏という観点もはらみながら非常に危なっかしさもありながら、ティグラン・ハマシアンのゲーム音楽は美麗な響きを奏でてくれました。
5) クルドの音楽
クルド人の音楽というのも本当に現代日本ではセンシティヴな案件というか、全般的な話としてイスラム移民が増えすぎて欧州が変質しているというのは前提としてあると想うのですが、欧州に於いてこの移民の”多文化”のミクスチャーが素晴らしい音楽を生み出しているのも確かで。このフランスで結成されたクルド×フラメンコの音楽というトランスナショナルな音は、非常に静謐で、いわゆる川口市の乱暴狼藉とは大分イメージの異なるもので。
個人的な落としどころとしては、移民の扉はぎりぎりまで狭めつつ、最低ラインとして違法行為をしたものは強制送還をする、くらいは必要になるのかな、ただ、例えば日本が原発事故で人間が住めない地になって日本人がディアスポラになったら、日本人の移民への冷淡さはしっぺがえしとして還ってくるのでは?とは想いますね。