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「捨てない」技術

東京事変の新アルバムは、ひと時冷めていた林檎熱をまた甦らせるような煌めきのある作品でした。

椎名林檎という世紀末に現れたアイドルは、どこまでもポップなのに、「私ってこんな変なことを考えている」というリアルさを持っていて、多くの人々を心酔させていました。

逆に、ポップさをなくそうとした流れ(『勝訴』から『加爾基』の流れ)や、意識してポップであろうとする流れ(『真夜中』や『群青』の流れ)は、一種不自然で、僕は結果として離れていきました。

しかし、改めて聴いてみれば、どのアルバムも一貫して人工的であり、その歪さと艶かしさが、椎名林檎というイコンを作り上げているなと思った次第です。

自分がいったんはまった後、冷めてみると、今までは待っていたものが非常に矮小的に見えることがあります。

世の中全体で見てもそういうことはあるのではないでしょうか。僕はそのとき斜に構えて遠めで観ていたTK Soundなる小室哲哉プロデュースの一連の作品も、今は廃墟のような様相をみせています。むしろあの頃を思い出して恥ずかしくなる人も多いのではないでしょうか。

しかし、小室好きの友人に聞かせてもらった音源は、今でもハイレベルだなと思わせるに十分なクオリティでした。特にTMNの『Major Turn Round』など、FISHMANSの『Long Season』に匹敵するようなプログレの大作でした。

流行なんてものは廃れるためにあるのだから、一通り熱狂した後は知ったこっちゃないとい消費スタイルは、それはそれでありだとは思います。

ただ、むやみやたらと流されて、ちょっと前に熱狂したものを貶めたりするのは格好悪いなと思いました。

あと、僕はいわゆる「売れてる」ものが嫌いで、Mr.Childrenとか、小室哲哉とか、敬遠していたのですが、最近「ポップであること」を再評価しつつあります。

例えば、これはいささか行き過ぎかもしれませんが、つんくも実は凄いのではとか今更思ったりしています。僕なんか『LOVEマシーン』聴いたときは「こんな変な歌を売っていいのか!」とか驚愕したものですが、結果としてつんくはとてつもない数の幼女をハートを昇天させたわけで、僕のまったくしらないツボを開発できたっていうのは凄い魔力をポップは持っているのだなぁと関心するわけです。

ただ、僕は「こだわりを捨てろ」と言っているわけではなくて、むしろ自分のこだわりを推し進めることには賛成なのですが、「自分が知らないツボを他人が知っている」「他人が愉しんでいるツボをみすみす逃している」のは嫌だなぁと思うんですね。だから、入り口はとてつもなく広く、そして中心はとてつもなく深い円錐のような体験をしていきたいなと思っていて、そのためには「捨てない」ことが重要なのではないかと思っているのでした。
by wavesll | 2006-03-05 13:22 | 小噺 | Comments(0)
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