旅に出た理由を挙げてみよう。1つ目は日本ではどうも息も詰まりそうだったこと。2つ目はいつかの風が俺を誘っていたこと。3つ目は車の免許を北米で取ろうと思っていたのだがびびって止めたこと。4つ目は友達が留学していたこと。5つ目は丁度春節の時期だということ。6つ目はくるりの『ハイウェイ』を聴いたこと。全部挙げていったら100個ぐらいになるかもしれない。
離陸前のノースウエスト航空の機内ではヴィヴァルディの『四季』が流れている。この曲は秋から冬にかけて、なんとも寂しい、きりきり凍える旋律が響いて好きだ。そして冬が明け、春がめぐり来る瞬間が最も好きだ。冬の終わり、季節の節目にこの国を訪れ、結局春の始まりの終わりと共に去ることになった。 AM6時前に寮を出て、タクシーを拾って北京空港へ向かう。この部屋から撮る北京の風景もこれで最後だ。空港までは100元かかった。見慣れぬ中国語の看板にちょっと戸惑った為、インフォメーションセンターで質問して海関(税関)を通って中に入る。しかしこの国の空気は本当に乾いているなぁ。空気を吸うだけで喉ががらがらになってしまうよ。 ロビーで搭乗時間を待ちながら『NINE STORIES』を読む。サリンジャーが描いた逸話群はミッドセンチュリーの乾いた空気を放っていた。 席につくなり寝てしまった。起きたら丁度機内食が配膳されてきた。なかなか美味いなぁ。映画『キング・アーサー』を日本語音声で観る。ハドリアヌスの長城付近を守るローマ帝国の軍人アーサーが、彼の部下の外人部隊と共にローマ帝国からの命令でアングロサクソン人と戦う中で、守るべき理想と許しがたい宗教上の迷信に気づき、ブリトンに自分の理想の国を造ろうと決意するまでが描かれていたはずだ(着陸のため物語の終盤でストップされてしまった)。 リーダーとして冷静に仕事を進める一方、それに反発する部下(しかし互いに信じあっている)の気持ちも理解できて自由と責任の狭間で悩みぬくアーサーの姿に畏敬の念を抱いた。 ただ、砂埃が吹きすさんでいるはずなのに、役者がそんなに汚れていないのはちょっといただけなかった。 成田に到着し、飛行機の外に出る。わー、空気が違う!湿り気があって暖かい!いくら吸い込んでも喉が渇かない!なんて空気がおいしいんだろう! 中国に慣れていたから、きれいなトイレにも、笑顔の役人にも(税関は簡単にパスできた。どうやら20万円以上の物品の持込みを調べるらしい)、コンビニの「いらっしゃいませ!」「ありがとうございました!」にも感動を覚える。こんないい国に住んでいたんだなぁ。ただ、電車内のアナウンスがうるさいのと、機器が音を出しまくるのには違和感を覚えた。コドモ扱いされてる気がする。 横浜MORE'Sで連れと別れ、スタバでチャイを飲みながら『NINE STORIES』の続きを読む。このドライな文体にはJUDEの『バスケットロードからの脱出』やTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTの『赤毛のケリー』のような曲がとてもよく似合いそうだ。 スタバは比較的外人が多いので、日本のリハビリにはぴったりだった。実際、エスプレッソを頼む頃にはだいぶ日本に順応していた。どれくらいかというと、席に荷物をおいたままカウンターに注文しに行くくらい。こんなの中国では考えられない。 日本の街はスペースを無駄なく使っていて、丁寧な細工を観ているような気分になる。気候や国土といった地理的な特性が、そこに暮らす人間の精神活動に与える影響はかなり大きいのかもしれない。漫画『サトラレ』のように、「思念波」が存在すると仮定すると、やはり思念波は「思念子」というメッセンジャー粒子によって構成されているのだろう。その場合、目は口ほどにものをいうと言うように、表情などに代表されるノンバーバルな情報は、思念子によって伝わっていると考えられる。それを感じ取ることは「空気を読む」という言葉で表せる。しかし多民族が暮らす国ではもっと分かり易い「意見」を口にしなければならない。 けれども、大きなエネルギーの塊である「言葉」では、肌理細やかな「空気」は表現できない。だから外国では何か感覚が違うというか、鈍いというか、違和感を覚えてしまうのだろう。思念子の受容体はその人の人生体験によって形成されるものだから。 『エレガントな宇宙』は万物は絶対の光速エネルギーを時空次元で使い分けていると説明していた。全ての物体がある瞬間に持つエネルギーは平等らしい。その考えを飛躍させて、時間ベクトルと空間ベクトルのほかに、「精神ベクトル」を加えたい。 深遠な人間の精神、他者や、社会や、自分自身の思索の荒野を進むことで、より素晴らしい世界に出会えるかもしれない。当然、より遠くまで、地平線の彼方まで行くには、非常に大きなエネルギーを集中させる必要がある。普段はほとんどのエネルギーは時間次元に使われているが、多くの人は社会と関わって自己実現することで、精神次元を旅しているはずだ。だから本当はわざわざ旅に出る必要なんて無いはずだ。 でも、もしも自分のエネルギーを使いきれてないと感じたり、エネルギーが無くなったと感じたら。もしくはなかなか先に進めず同じ風景に飽き飽きしてしまったら、抽象的な旅を止めてもっと捉え易い空間的な旅に出ることをお勧めする。認識宇宙を広げ、自分のエネルギーを確認して帰ってきたらしれっとこう言えばいいのだ。 「僕には旅に出る理由なんて何一つ無い」 ハイウェイ くるり 僕が旅に出る理由はだいたい百個くらいあって ひとつめはここじゃどうも息も詰まりそうになった ふたつめは今宵の月が僕を誘っていること みっつめは車の免許取ってもいいかなあなんて思っていること 俺は車にウーハーを(飛び出せハイウェイ) つけて遠くフューチャー鳴らす(久しぶりだぜ) 何かでっかい事してやろう きっと でっかい事してやろう 飛び出せジョニー気にしないで 身ぐるみ全部剥がされちゃいな やさしさも甘いキスもあとから全部ついてくる 全部後回しにしちゃいな 勇気なんていらないぜ 僕には旅に出る理由なんて何ひとつない 手を離してみようぜ つめたい花がこぼれ落ちそうさ SPECIAL THANKS お世話になったY君。連れのS君。入れ替わりになったT君とK君。万里の長城の話を聞かせてくれたNさん。同じ寮のHさんとIさん。朝ソファーで寝ててくれた小姐。万里の長城バスツアーで英語で学生証のことを教えてくれたカップル。中国の情報を教えてくださったS先生とJd.さん。日本で幹事に電話番号を連絡してくれたI君。家族。新疆料理店。刀削面店の娘。中国で出会った全ての人たち。友達。SHARPのノートパソコン。PENTAXのデジカメ。変圧器。ほぼ日手帳。ARCADE。くるり。民生。ディラン。多くのミュージシャンたち。『エレガントな宇宙』の著者Dr. Brian Greene。『NINE STORIES』の著者Mr. J. D. Salinger。タイトルに使わせていただいた『倫敦消息』の著者夏目漱石先生。 そして全ての閲覧者のみなさま。ありがとうございました。 P.S. 『NINE STORIES』を読み終わってスタバを出ようとしたら実にタイミング良く『四季』が流れてきたので、タワレコでカラヤン指揮の『Le Quattro Stagioni』をジャケ買いした後、家路に着いた。 後書き
by wavesll
| 2005-02-18 01:51
| 旅
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Comments(2)
お帰りなさいませ。北京消息、毎晩更新を楽しみにしてました。
自分も旅に出たくなりましたよ。 日本に帰ってくるといつも思うのが、 1.成田って遠いなー。 2.日本の交通機関って、外国人に不親切だなー。 3.缶コーヒー美味いなー。 ってことです。 日本って、ほんといい国ですよ。 毎度毎度、行く直前まで面倒臭いと思いながらも旅に出ているのは、 もしかするとそれを確認するためなのかも知れません。 北京には、また行きたいような行きたくないような。 場所としてはは好きだけど、人はキライ(w。
0
ただいまです。お褒めの言葉を頂けて光栄です。
缶コーヒーはホントに日本の宝ですね。僕は湯船につかった時に「あ"ー、日本人で良かったぁー」と心の底から思いました。日本にいるときは、然程意識しないんですけどね。まさに「空気のような存在」になっているんですよね。
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