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ألف ليلة وليلة

Le Couple 『ひだまりの詩』

千一目のエントリは、千夜一夜物語(Alf Layla wa Layla)にあやかって、俺にとっての愛しのレイラを書こうと想うwwwwwww

基本超鈍感な俺なのだが、たまに魂が震える時がある。それは大抵、俺の想像を超える出来事に遭遇したときだ。

女でいったら、とてつもない精神の深さを湛える奴がたまにいて、そういう奴に遭ったときはこちらまで深遠に溺れるような心持になってしまう。

実際に会った女の話を書いてもいいのだが、迷惑かけるとあれなんで、今回はノンフィクションの中にいたいい女の話を書こう。彼女の名は夏目鏡子だ。

彼女が夫との思い出を語った『漱石の思い出』によると、渡英から帰ってきた漱石は「頭を悪くして」、家族や女中にとんでもない仕打ちをしていたらしい。怒鳴る、殴る、朝から風呂場で剃刀を研ぐ。特に妻である鏡子さんには辛く当たって、何度も何度もお前なんかいなくなっちまえばいい、別れてくれと言ってきたらしい。

鏡子さんの親類の方でも、かわいい娘を精神病の男のところにおいておくことはないという人がいたらしい。その話をお母さんからされたときの鏡子さんの返しがふるっている。

「そんならどうかお帰りになって、皆さんにおっしゃってください。夏目が精神病ときまればなおさらのこと私はこの家をどきません。私が不貞をしたとか何とかいうのではなく、いわば私に落ち度はないのです。なるほど私一人が実家へ帰ったら、私一人はそれで安全かもしれません。しかし子供や主人はどうなるのです。病気ときまれば、そばにおって及ばずながら看護するのが妻の役目ではありませんか。ただ私だから嫌われている。私さえどいたなら夏目の頭がなおるというのなら、また考えなければなりませんけれど、あの病気では私がどいた、後へ誰か後妻に入ってきたといっても、あんなふうにやられて誰が辛抱しているものですか。きっと一か月の辛抱もできず逃げ帰るに違いありません。どうせこうなったからには私はもうどうなってもようございます。私がここにいれば、嫌われようと打たれようと、ともかくいざという時にはみんなのためになることができるのです。私一人が安全になるばかりに、みんなはどんなに困るかしれやしません。それを思ったら私は一歩もここを動きません。私はどこどこまでも此家にいることにいたしましたから、どうかこの上は何もおっしゃらずにだまって見ていてください。一生病気が直らなければ私は不幸な人間ですし、なおってくれればまた幸福になれるかもしれません。危険だということも万々承知しているから、子供たちなんかにも十分注意して行きます。どうかいっさいこのことについては実家の方から指図がましいことをしてくださらないように……」

と涙を流しながら決心を打ち明けたそうなんだ。このとき漱石は『吾輩は猫である』も書いていないただの一介の教師で、家は貧乏だった。こんなどん底の男のために鏡子さんはここまでいってやれる心のあったかさを持っていたと想うと、漱石先生はいい女を奥さんにしたなぁと想う。

ここまでとはいわないが、一緒にいてこころを温めてもらえるような人と付きあいたいものだな。


Yentown Band 『Swallowtail Butterfly ~あいのうた~』
by wavesll | 2007-12-13 10:15 | 私信 | Comments(0)
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