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第1章・第2章
第3章 ショウの幕があがる時 ドイツ、ボン大学、哲学インターナショナル・センター トマス・セドラチェク(経済学者、チェコ) 「真面目な人がクレイジーになるとただのクレイジーな人より厄介だよね」 マルクス・ガブリエル(哲学者、ドイツ):ボン大学教授。「新実在論」を提唱。注目を集める気鋭の哲学者。近著『世界は何故存在するか』 「僕もまったくそう思うよ。 資本主義を定義するならば『商品活動に伴う活動全体』となるだろうね。そして今日の資本主義の世界はいわば『商品の生産そのもの』になった」 生産の体系=資本主義 ガブリエル 「そもそも生産する(produce)とは何か?語源は『前に(pro)持ってくる(duce)』だ。つまり商品の生産とはいわば見せるための『ショウ』なのだ。」 生産=新たに「見せる」こと ガブリエル 「フェイスブックの『いいね!』やこの会話も商品の生産だ。その意味ではカメラやディレクターや私たちの今の気持ちもそこに含まれる。今では資本主義は全てがショウ化している経済システムだ。 偶然かもしれないがドナルド・トランプは資本主義の顔のようだ。彼はテレビショウを作っている。資本主義は代替案のないショウだと思うよ。 ドナルド・トランプの戦略は従来の戦略と全く異なると言える。重要なのは鉄鋼会社を守ることでも雇用を守ることでもなくショウを売ることだ。今のアメリカの政権が富を生み出す方法はまさしくショウ形式によるものだ。」 フェイクさえ商品(ショウ)になる ガブリエル「そうなると最近のアメリカ製品で最強のモノの1つは」 セドラチェク「見せ物だね」 ガブリエル 「そのとおり。フェイクニュースのような偽物があふれている理由の1つは大量生産がなされる状況において恐らく偽物が理想的な商品だからだ。ベストな商品は安く作れて浮ついたモノなんだ。」 ショウほど素敵な商売はない。新たな欲望の世界の幕が上がった。 「景気は上がってきているがトランプのふるまいはまずいね。彼はまともなことを言えなくなったようだね」 「人々は彼の能力と目指すところを信頼していると思う。だからこの国のことも信頼できるし私も安心して投資が出来るよ」 「資本主義は自然な形だと思う。ライオンや猿が住むジャングルに社会主義なんてないだろう。結局私たちも動物だ。資本主義はずっと続いていくだろう。お金も食べ物もなく路上で暮らして心の問題を抱えている人もいる。見るのは悲しいけど…『自由な社会』が払うべき代償だね」 資本主義=自由? 第4章フォースの覚醒 グローバル化 貿易 投資 国境を越えて資本を増やそうとする人々と、そこから取り残される人々。引き裂かれる欲望の世界 トランプ「壁をつくるぞ。議論の余地はない。」 右でも左でもない。上でも下でもない。資本主義はどこへ向かう? トマス・セドラチェク(経済学者、チェコ) 「もともと私たちは『政治移民OK、経済移民にはNO』と言ってきた。『経済移民はいい暮らしがしたいだけ』『それはNoだ』。 だが実際は逆だった。数多くの移民がヨーロッパに来て私たちの代わりに働きさらに消費をしてきたことを私たちはOKだと思っていた。移民と犯罪の可能性を結びつけたりイスラムと関連づけたりすることもなかった。 なのに突然…状況が政治的になり移民が仕事ではなく助けを求めてきた瞬間私たちは『NO』と言ったのだ。実際は何千万もの経済移民を歓迎してきたのに。事態が政治的になった時『NO』と言ったのだ。 私たちは理屈に反する本能的な行動をしているね」 いつから政治の裏側に経済という本音が張り付いたのか。建前では仲間、でも実は、敵。矛盾は何故生まれた? 経済と政治の錯綜 マルクス・ガブリエル(哲学者、ドイツ) 「皆がポピュリズムと言うがそれは無意味で的外れな診断だ」 ポピュリズムはマジックワード? ガブリエル 「今起きている現象には恐らくそれを表現するためにより適した言葉が見つかるのではないかと思う。これはグローバリゼーションに対する抵抗の一種じゃないかな。この分野で何かが起きているんだ。 グローバリゼーションは基本的に経済プロセスだから起きていることを経済的に説明しなくてはならない。政治的ではなくね。 ドイツの人口の12.6%が排外主義に目覚めて投票を決めたわけではない。そうではなくむしろ地球のあちこちで不公平を目にするようになったためと考えた方が良い」 グローバル化→格差の発見 ガブリエル 「まだ十分に話題にされていない国にブラジルがある。いまブラジルは崩壊しつつある。ブラジルは今の資本主義の過度な実験場と言えると思う。知る限り地球上で最も不平等な国だ。南アフリカよりもね。 経済学者のあなたの方はこの様子をどう感挙げるかな…。ポピュリズムや民衆扇動が…」 セドラチェク 「ポピュリズムは正しい言葉ではないよね。ポーランドでも起きた…」 ガブリエル 「そうだ。EU内で起きてることだ」 セドラチェク 「ヨーロッパの交渉の中心にいてEUの理念に賛成していた政権だった。なのに2週間で突然邪悪な勢力(フォース)が目覚めたのだ。僕はポピュリズムと呼びたくない…これは暗い悪のようなものだ。」 悪の力(フォース) セドラチェク 「あれは2015年の終わり頃『スター・ウォーズ』が公開されたね。『エピソード7』タイトルは『フォースの覚醒』だった。少し予言めいてるよね。2015年末に何かが起こり悪魔的な門が開いたのではと…私は陰謀論とかを調べたりさえもしたよ。 何か構造的な変化が生じたのかもしれない。この状況を表すうまい言葉が見つからないが、もう人々が『いい人』でいられなくなったのかもしれない。『なぜ私が助けなきゃいけない?』とね。『私のことは助けてくれないのに』ってね。 何というか…キリスト教徒の反応はイスラム教の国々の反応よりも極端に経済的なものだった。イスラム教の国々は実際はるかに多くの数の難民を受け入れている。」 ガブリエル「そうだね」 いい人 疲れ? ガブリエル 「あなたの『悪』の分析に賛成だ。悪というものを今一度考えてみる必要がありそうだね。シェリングという哲学者がいて彼についてはたくさん研究したが、今のところ彼が悪についてベストな説を発表している。」 ドイツの哲学者 フリードリヒ・シェリング(1775~1854) ガブリエル 「この本の中で彼は、悪は人間の心の中でだけでなく、実在するポジティブなフォースだと主張している。 どんな組織もどんなシステムも時間を経て自身を維持するためには他のシステムを排除しなければならない。外部がないシステムは内部に『異質なもの』を作り出さなければならない。これが悪のダイナミクスだ」 ”外側”がないと、悪が生まれる by シェリング ガブリエル 「システムが大きくなりすぎたら…たとえばローマ帝国だ。スター・ウォーズも『帝国』だったね。ローマ帝国は外部があるという感覚を失った瞬間に崩壊を始めた。確かにグローバリゼーションは新たな悪を生み出したのかもしれないね。 資本主義は国家というよりも経済的な帝国だが帝国は内部から悪を作り出すのだ。これが『ナショナリズム』などが復活している背景なのだろう。確かに悪に似た姿をしている。」 ただ一つの地球(ほし)に住むわたしたち 「悪」は個人に生まれるのか 「悪」は社会に生まれるのかー 第5章 イノベーションの呪縛 トマス・セドラチェク(経済学者、チェコ) 「資本主義はゾンビに例えることもできる。ゾンビが醜いからではなく非常に効率的だからだ。フロイトによれば人間の抱える問題は『増えること』と『食べること』に行き着く。心理学では有名な説だね。 でもゾンビはその上を行く。人を『食べる』と同時に『増える』からね。でも私たちはこんな効率化を望まない。ゾンビは愛する者の魂を奪い動物以下になってしまうからね。」 資本主義はゾンビ的? セドラチェク 「資本主義の問題点は道徳規範を失い中心が空洞化していくことだと考えていた。哲学者ラカンの読みすぎかな…。しかし空洞だと思っていたのは私の間違いだった。実際には中心に強力で支配的な観念が存在しているようだ。」 資本主義の強迫観念ー セドラチェク 「原則は『役に立つことだけをしろ』。『自分を愛してくれる者は愛し、自分のことを嫌う者は嫌え』。『よくしてくれる者にはよくし、意地悪をしてくる者にはやり返せ』だ。 この観念はあらゆるところに根付いていて生まれた時から親しんでいるから私たちは気がつかないのだ…」 なぜ気づかない マルクス・ガブリエル(哲学者、ドイツ)「資本主義はどこまでも拡大し続ける性質だからね。」 セドラチェク「そうだ。生産額をね」 ガブリエル 「そうしないといけない。資本主義は『成功』という概念の上に成り立っているシステムだ。『成功』は非常に重要だ。」 『成功ファースト』の資本主義 ガブリエル 「ひとたび成功するとさらに未知のものを見つけようとする。ある企業が何かを達成し成功を収めたとしよう。その後も成功者であり続けるためには同じことを続けていたらダメだ。iPhoneを発明しても、同じiPhoneを作り続けていたらダメだろう? 成功者でいるためには何かを達成するだけではなく絶えず成功し続け自らを維持する必要がある。これまで見えていなかったものに目を向けるのだ。新たに「存在」を見つけ、値段をつける。」 セドラチェク「二酸化炭素とかね」 ガブリエル「いい例だね。それが資本主義の特性だ。」 セドラチェク「経済学者として納得できるよ。」 すべてを商品化せよ 成功、名声、価値、お金。もうヒトは後戻り出来ない。飽くなき創造と破壊こそが、エンジン。 新しさを追いかけて何が悪い? ダニエル・コーエン(経済学者、フランス) 「資本主義の歴史をシュンペーターは『創造的破壊』の連続だとした。あくまで『破壊』を指摘したところに注目すべきだ。創るために『破壊』すること。資本主義の世界で人々はずっとこれを繰り返し、それは強迫観念のように私たちを駆り立ててきた。 シュンペーターの表現は現実をよく捉えているからこそ人々の心をつかんで何度もよみがえってくる」 私たちの住む世界はシュンペーターが思い描いた道を進んできたのか。でも… 「資本主義はその成功ゆえに自壊する」ーヨーゼフ・シュンペーター 奇しくもカール・マルクス(ドイツ生まれ、1818-1883)がこの世を去った年に生まれたヨーゼフ・シュンペーター(オーストリア生まれ、1883-1950)。資本主義を批判した男へこんな賛辞を送っている。 マルクスの体系は批判されても反証を突きつけられても致命傷を負うことはなく、かえって構造の力が際立つ。偉大なものには闇の力がある -ヨーゼフ・シュンペーター著『資本主義・社会主義・民主主義』 時代を越えてよみがえる闇の力とは? お金と欲望をめぐる物語、舞台は後半へ続く 『欲望の民主主義 世界の景色が変わる時』をみて ▲
by wavesll
| 2018-01-23 22:35
| 書評
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![]() この鳥を描いた<たまご かおり>さんの絵、私はたまらなく好きで。 美しいだけでなくて、どこか野生の焔を感じて。 いつか個展をみてみたい、或いは鴎庵上で電子個展を開けないかと夢想する画家さんです。 そんな生命力と可憐さを音であらわすならば、どんな音楽が好いのだろうと悩みに悩んだ結果、”よしこれで行こう”と想ったのがこの一枚 エチオピークス・シリーズの中でも珠玉の一枚である本作は女性ピアニストによる詩情あふるる、けれど大地にすっくと立った音楽。 風を彫ったような、ふわりとぞわりが同居するような。軽みと鮮烈さをこの2人には共通して感じて。 芸術への、そして人への愛情が内発するような、そんな温かいエクスペリエンスでした。 ▲
by wavesll
| 2018-01-23 00:01
| La Musique Mariage
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