1 ![]() 今話題沸騰のインド映画、『バーフバリ 王の凱旋』をみてきました。この映画は前作『バーフバリ 伝説誕生』からの完結編なのですが、本編が始まる前にダイジェストが流れるし、本作から見てもみれます。ただDVDとかで前作を見てからの方がいいかもしれません。 全世界で300億円を売り上げている『バーフバリ 王の凱旋』。Webの評判で”『MADMAX 怒りのデス・ロード』並みの神話!これをみればみな「バーフバリ!バーフバリ!」となる!”という絶賛具合に惹かれてみたのですが、実は途中までそこまでノリきれなくて。 神話的なつくりが大味に感じたというか、闘う女性像を打ち出していたのはわかるのだけれどもその点は『怒りのデス・ロード』が勝っているように感じたし、何よりこれを言っては詮無いのですが、王家の血を引く素晴らしい人物という主人公像が前時代的に感じて。 そういった意味では『シン・ゴジラ』の官僚たちの方が現代性が有るように感じたのでした。勿論”大衆が求める英雄像”は国によって異なるし、”俺はノリきれないけれどこのダイナミズムが絶賛される理由はわかる”と途中まで見ていて。 ただ或る視座を持ってから一気に物語が”自分事”になって。そのパースペクティヴは『器のない兄にとっての弟』というもの。 私は弟から尊敬されてはいない兄で。それどころか軽くみられるような具合。それも客観的にみれば私自身が甘ちゃんすぎて人の上に立つ器がない故で。 インドに儒教的な価値観があるかは不明ですが、弟から敬意を得られている感覚がない兄というのはどうにも具合が悪く。それは己の責任なのですが、その歪んだルサンチマンがバーフバリの兄を悪漢とさせてしまったのではないかと。 そんな訳で敵役に半ば感情移入する形でこの映画を見たのでしたw ただ、私自身はこの邪悪な兄よりかはすこしはマシな心の在り様になれたのは、弟からの承認を明らめたことにあります。 愛ゆえに憎しみが湧くというか、承認欲求が満たされない故に苛立つことってあるのではないでしょうか?情を薄めることになるかもしれないけれど、承認を放棄することでその分憎悪に囚われることも減った気がします。 想えば年下の人間に成熟を求めるのも理不尽な話、そして一分野において劣っていたとしても全分野で敗北する訳でもなく、適切な距離を置くことが無為な衝突・消耗を避けることに繋がる。相手の美点も汚点も第三者的に観るのが肝要だと。 それに器を拡げる、或いは配慮を与えることをせずにただ敬意を受けるというのは理のない話。ましてや恐怖で得ようなんてのは最悪手、器とはいかに下に自由にさせられるかかもしれない、私欲を越えた行いこそが善君の在り様かもなぁなんて考えていたらラストバトルが終わっていました。 そんなわけで様々な想念が湧くいい映画で帰りにパンフも買ってしまったのですが、パンフは『マハーバーラタ』からの絵解きや『十戒』や『ベン・ハー』等の古典へのリンクばかりが語られていて、”本当は読みたかったのはもっと具体的で直接的な演出や演技についての話なのになぁ”とは想ったり。 これは好き好きというか、こうした文脈・血脈を語ることにも意味はあるとは思うのですが、ある映画の良さを語る時にその素晴らしさを”参照先からの正当性”に求めるよりも、その作品そのものに語れたらいいななんて最近は想っていたのでした。 なーんて言いながらこのエントリでは自分語りをガンかましてしまっているのですがw少なくともそこまで人の心の扉を開くエナジーに充ち満ちた映画でした。 改めて舞台のヴィジュアルが素晴らしい。滝もそうですがマヒシュマティの王宮の威容が神話的な堂々たる迫力を支えていました。 また感心したのは戦闘スタイルが人物造形に繋がっている事。シヴドゥが滝登りで鍛えた肉弾派のファイティング・スタイルならば父バーフバリは王家の武術を学んだことを顕わす武具を卓越したファイティング・スタイル。 また『伝説誕生』の戦国無双を思わせる闘い方から『王の凱旋』では水戸黄門的な諸国漫遊からの一気に締めるスタイルなのは、武将から個人への物語のダイナミズムを表している気がしました。 また後編を見て上で綴った名君の条件は前編ではさらにあからさまに描かれていて、民を想う優しさ、兵を鼓舞する指導力、そして戦いに際しての機知と、これは大した王だ、と。その上で1・2共にヒロインがバーフバリに惚れるのはその強さに於いてというのも、男の条件を提示しているようにも感じました。 自分の権威を誇示したり、「俺はこれだけのことを為しているのに認められない」と”(正当だと自分では思う)取り分をよこせ”と喚くのは見苦しく、それは価値ある人だとしてもその価値を損なうことになってしまいます。バーフバリの無自覚な素晴らしさは実力に裏打ちされた上での利他精神にあるでしょう。 その上で、それは無自覚に(劣る者から)取り分を奪っているとも感じて。現代のテロリズムは弱者の凶行というか、まともに戦った結果勝てないことを理解した上で支配され奪われるわだかまりを無法に向けてしまっていると。 人生は奪い合いであり、そして最適化の結果が社会の在り様でもあります。その上でテロルに堕ちないよう世界の内に別次元のアジールのような曖昧な情況を維持した上でスポーツマンシップなエリアで競うことが大局の安定化にもなるのかもしれない、けれども実力・正義の人は、翳には配慮はしないかもしれない。ならば、生存空間を開くほかない。そんなことをこの豪気な映画を見て想いました。
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by wavesll
| 2018-02-01 21:19
| 映画
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