2018年 06月 13日 ( 2 )

松平不昧展at三井記念美術館にて大井戸茶碗 喜左衛門井戸をみた

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三井記念美術館に没後200年 大名茶人 松平不昧ーお殿様の審美眼ー展をみてきました。

松江藩松平家第七代藩主でありながら茶人としても名高い松平不昧、彼のコレクションを存分に楽しめる展示が開かれているのです。

先ず目に飛び込んでくるのが金縁が美しい重文≪油滴天目≫。そこからゴゴっとした存在感が印象的な≪信楽水指 銘 三夕≫や、タイのスワンカロークでつくられた≪宋胡録九角香合≫、螺鈿細工が美しく付属の小刀なども技ありな≪楼閣人物螺鈿十角硯箱≫、富士の文様に黒線が入った≪唐物肩衝茶入 富士山肩衝≫、そして梅の花の文様が幾つも咲いた国宝 ≪玳玻盞 梅花天目≫、さらには不昧が石州流茶道で立ち返ることを志した千利休作の≪竹茶杓 ヤハラ道怡≫が。

そして…次の間では愈々御目当て、国宝 ≪大井戸茶碗 喜左衛門井戸≫!!!

井戸茶碗とは16世紀頃に朝鮮半島から渡来した高麗茶碗と呼ばれる茶碗の一種で、彼の地では日曜雑器だったものが日本の茶人が見初め、中でもこの茶碗は「天下第一の名碗」 と呼ばれる逸品。

朝鮮から渡ってきたこの茶碗はぐわっとした存在感に、まるで大物の遺跡をみるような迫力と神性が内から湧いていました。土のスケール感、高台の梅花皮がまさに井戸のように石が積まれた凝縮感。素晴らしい。何でもないとされてきた器に美しさの究みを見出だした数百年前の此の国の人々の目利き、美の哲学の結晶とも感じました。

広間へ出るとそこには掛け軸と茶器が。

≪青井戸茶碗 銘 朝かほ≫も派手でない土の美があって。≪斗々屋茶碗 銘 広島≫の渋色に青錆。重文の≪堅手茶碗 銘 長崎≫のひしゃげた感じも現代的感性。これも重文≪本阿弥光悦作 赤楽兎文香合≫はウサギが描かれた可愛らしい逸品。可愛いと言えば翡翠にクリーム色がちょこんとのった≪交趾大亀香合≫や、ダイヤカットな≪白呉須台牛香合≫に、礎を模した≪伊賀伽藍石香合≫も良かった。

光悦の孫の本阿弥光甫作≪信楽芋頭水指≫も良かったし、≪丹波耳付茶入 銘 生野≫のアブストラクトな魅力。雪舟筆≪一円相≫のシンプルで宇宙的な真円。また不昧は筆も好くて、松平不昧の絶筆≪遺偈≫の喫茶喫飯というコトバに骨頂をみて。松平不昧筆≪一行書「明歴々露堂々」≫と≪一行書「独座大雄峯」≫の力強い筆致も良かった。

そして不昧筆≪書「喝」≫一字の迫力。それと共に茶室に展示されていた≪伊羅保茶碗 千種伊羅保≫が浜と波が一碗に込められたような作品で素晴らしかった。

松平不昧筆≪茶の湯の本意≫に書いてあった「時代に合わせてブラッシュアップすべし」「下手でもOK」には唸らされて。千利休の教えが書かれた松平不昧筆≪三百ヶ条≫や、不昧の大いなる業績である、各地の名物の品録≪古今名物類聚≫と彼の蒐集物が記された≪雲州蔵帳 貴重品目録≫も。

松平不昧≪茶杓 銘 残雪・残花≫の文字のかっこよさ。小林如泥≪桐茶箱≫の雪の字。松平不昧と妻より子合作≪桐茶箱 春の月≫の品の良さ。

松平不昧の力強い筆運びに狩野伊川院栄信の亀の画が格好いい≪福禄寿亀図≫や豆腐で世の中を例えた松平不昧筆≪豆腐自画賛≫、そして花柄のデザインがとっても嬉しい松平不昧≪書「春月」≫も良かった。

最後の展示室も素晴らしく、表から裏へ菊の柄が入った長岡空斎≪楽山焼 色絵菊図茶碗≫、金に螺鈿の原羊遊斎≪片輪車蒔絵棗≫や黒に金が輝く原羊遊斎≪蝶蒔絵大棗≫、黒に菊が透明に浮かび上がる初代小島漆壺斎≪やみ菊棗≫、シンプルでエレガントなデザインの初代小島漆壺斎≪桐蒔絵茶桶≫、「福」の字の意匠がまたいい初代小島漆壺斎≪福寿棗≫、蓋の凹みがまた現代的な初代小島漆壺斎≪竹中次≫も良かった。

さらに原羊遊斎作/狩野伊川院栄信下絵≪椿蒔絵香合≫・≪かまきり蒔絵香合≫・≪きりぎりす蒔絵香合≫の金と螺鈿の意匠が黒に映えて楽しく、狩野伊川院栄信画≪張庫形牛香合≫の木の赤茶に牛が浮かぶ様や≪古染付張甲牛香合≫、黒に薄っすらと桃が浮遊する原羊遊斎≪桃蒔絵細棗≫も素敵だったし、≪片輪車蒔絵香合≫も良く、玉川又徹作/蓋絵・酒井抱一画≪桐茶箱 水月≫も素晴らしかった。不昧を通して利休と抱一が繋がるとは。

そしてそんな不昧が創った≪薩摩竹水指 銘 山川≫も内側が黒に塗られ紅葉が映える独創的なデザインが好いし、最後に見た松平不昧≪竹筒花入 銘 心の花≫は”花は要らず、打水だけで好い”という領域へ。不昧は茶を通じて空へ到達したのかと心が震わされました。

みごとな茶の道、素晴らしい趣味をみせて貰えて、しみじみとした機微のある展覧会でした。

by wavesll | 2018-06-13 21:24 | 展覧会 | Trackback | Comments(0)

岡田 尊司 著『対人距離がわからない ─どうしてあの人はうまくいくのか?』読書感想メモ

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コミュニケーション指南書として期待していた柔らかい感じではなく、教科書的な堅めにコミュニケーションタイプによって人々を分類して、それごとの特質を分析・羅列する本でした。

人と親密になりやすい演技性パーソナリティーは幸福度が高いが、長い付き合いの中では真面目な強迫性パーソナリティ―の方が人から重要視されるとの話。またシゾイドや回避性パーソナリティー等のヒトとの関わりから遠のくタイプは幸福度が低いとのこと。

多くのコミュニケーション不全が自分に重なりなりつつもほとんどの話は深く刺さることはありませんでしたが、言語性IQ、動作性IQの他に処理速度という軸が社会の中でのロールを決めるという話と、「自分の悲しみやつらさを乗り越え、相手の視点など自分を超えた視点で振り返り、それを許そうとする」という「メンタライゼーション」という技術が人生を前向きに安定させるという話は興味深いものでした。

演技性パーソナリティーや反社会的特性のある人間に対しては拒否をきちんと主張しつつ、自分自身はそういうライフハックをすることを現実を上手く廻すために薦めながらも、最後に他者の心を打つのは真っ当な誠実さだと読めて、綺麗な噺に落ち着いたと感じました。

この著者はみてみると似たようなテーマで本を量産していて、ちょっと看板や視点を架け替えてるだけだと感じてもうこれ以上金を払うことはしないだろうけれど、一人の人間のリソースではそんなに多種多様に深く物事を書き記せるものでもないから、食っていくためには少しインスタントになっても新作を出し続ける必要があるのだろうなと。

お薦め度は3/10。特に「コミュニケーションのコツが知りたい」だとタイトルを観て期待した人にはあまり参考にはならない本だと想います。


by wavesll | 2018-06-13 05:01 | 書評 | Trackback | Comments(0)